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□とにかく、乙女座というのは
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ある日の昼下がり、昼食を終えた刹那達は各々の時間を過ごしていた。
スメラギは片付け、ロックオンは珈琲を飲み、兄三人は各自の部屋へ戻り、そして刹那はプラモを作っていた。
もちろん、ガンプラである。
「ねえ、刹那。プラモデルばかり作ってないで勉強しなさいよ。今年は受験生なんでしょ?」
スメラギが黙々とガンプラを作っている刹那を見て、心配そうに聞いた。
「…。」
刹那は返事をしない。夢中で気がつかないようである。
「まあ、いいじゃないか。刹那はそんな頭悪い訳じゃないんだし。好きなことさせてやれよ。」
ふうっと溜息をつくスメラギ。
「そうよね…。でも、プラモデルはそろそろどうにかしてほしいわ。」
ちらりと窓の方を見る。
「窓際にあんな沢山だと、掃除が大変で…。」
そこにはガンプラが四.五十体。外からも見える位置に、彼等は居座っているのだった。
「この間、プラモデル屋敷ってお隣りさんに言われちゃったし。」
また、溜息をつく。
「はは、そーか…。」
ロックオンは乾いた笑いしか出なかった。


「ほら!カタギリ見ろ!あの家にガンダムが沢山いるぞ!」
「はいはい、分かったよ。グラハム。」
そんなころ、外ではカタギリとグラハムが歩いていた。
「大体、何しにここまで来たか分かってるのかい?僕達は向こうのラーメン屋に取材に行こうと……」
「おっ!あの少年がガンダムを飾っているぞ!」
グラハムは聞いてはいない。
カタギリは溜息をつくが、そんなことお構い無しにグラハムは近か寄っていく。
ちょうど刹那が家から出てきて、飾り終えたガンプラを外から眺めているところだった。
「…何のようだ?」
「このガンダム達は君が作ったのかい?」
「……ああ。」
出合い頭にガンダムについて話し掛けられ、刹那は少々訝しんだが、とりあえずうなづいておくことにする。ガンダム発言を除けば見映えする好青年なのだから。
「なんと!乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じられずにはいられない!私もガンダムを愛しているのだよ!」
前言撤回。かなりの変人だった。関わりたくないと切にそう思った。
「グラハム、いい加減にしないか!ああ、すまないね。うちの連れが迷惑かけてしまって。」
「…あんたら、何したいんだ。」さりげなく、二人から遠ざかる。しかしなおも詰め寄って来るグラハム。
「少年。」
「刹那だ。」
「せつ…な……?」
カタギリに何かひっかかるものがある。
「おお、すまない。刹那。頼みがあるんだが。」
「…なんだ。」
嫌々そうに眉をしかめる。
「君の技術は素晴らしい!まるでガンダムが生きているようだ!!だから君のガンダムを見せてくれないか?」
その言葉を聞くと刹那はキッと眉を吊り上げ、後ろへ下がる。
「俺のガンダムだ!!お前なんかに触らせられるか!」
そんな刹那の物言いに臆することなく、ただ首を竦めて次の言葉を発する。
「では、私の為に作ってくれないかな?」
刹那にありえない程近寄る。
「グラハム、いい加減にしないか…。」
刹那は怒りによって肩を震わせる。怒鳴ろうとした。しかしそれは遮られた。
「ちょっと!刹那!さっきから大声出して、近所迷惑でしょ!……ってあら、カタギリじゃないの。」
スメラギが家から出て来たのである。
「ああ、どうりで聞いたことがあると思った。君の子供だったんだね。刹那君。」
カタギリはにこやかに刹那へ笑いかける。刹那にはどうも合点がいかない。
「てことは、その方が貴方の上司の…グラハムさん?」
「そう。噂通りの方だよ。」
苦笑いをしながら、カタギリは言う。スメラギも苦笑いで応じる。
刹那はスメラギに問い掛けた。
「母さん、この人達はなんなんだ?」
「ん?お母さんの仕事場の仲間。こっちがカタギリであっちがグラハムさん。取材を中心にしているのよ。」
さっとカタギリの血の気が引く。
「うわあぁ!忘れていた!これから取材なんだ!向こうを待たせているのに!グラハム、行くぞ!」
そう言うなり、カタギリはグラハムを引っ張って行ってしまった。
グラハムが去り際に言った「刹那!また会おう!私達は出会う運命なのだよ!」という言葉を聞いてしまった刹那は、一気にトーンが下がる。

「あんな人の相手をしていたの?大変だったわね。」
スメラギがふうっと息をつく。
「…母さん。俺、ガンプラを窓に置くのやめる。」
「そう?」

どうやら、グラハム旋風は刹那に影を落としていっただけだったようである。
後日、刹那の部屋がガンプラだらけになったのは言うまでもない。






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