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□刹那はぴば!
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いつもの談話室。誰もいないと思っていたが、そこには先客のティエリアがいた。

「よう。どうしたんだ?もうすぐ休暇だろう?」

「地上は嫌いだ。」

あぁそうか、とロックオンは半笑いを浮かべる。刹那と同じくらいいつも一人でいることの多いティエリアのことをいつも何かしら気に掛けるようにしているが、まともな反応が返ってきた例がない。

「――ところでロックオン。」

「何だ?」

ロックオンは怪訝な表情を浮かべる。なぜならティエリアはいつもの仏頂面に若干の笑みを浮かべていたからだ。

「今日は何日か知っているよな?」

「ああ、グリニッジ標準時間で三月の三十一日だろ?いや、もう四月だな。十二時回ってる。」

ふっとティエリアは冷たい視線をロックオンに送る。

「あと一週間じゃないか。」

「何がだ?」

ロックオンには、ティエリアの言葉に思い当たる節がない。

「刹那・F・セイエイの誕生日が四月七日だ。」

「何だと!」

今にも掴みかからんばかりの勢いで、ティエリアに詰め寄る。

「何で、ティエリアは知っているんだ!」

俺に刹那は何も言ってこなかったぞ…、と呟くのが聞こえる。

「本人から聞いた訳じゃない。ヴェーダのデータ内にあっただけだ。やはり、知らなかったんだな。」

軽いショックを受けているロックオンにティエリアは言ってやった。

「祝えばいいじゃないか。ちょうど休暇だ。家にでも押しかけていけばいい。」
ぱぁぁっとロックオンの顔が輝くのが見て取れる。分かりやすい男だ、とティエリアは思った。
ふと、ロックオンは眉をひそめる。

「…何で、俺に教えた?」
「さあ?」

そう言って、ティエリアは談話室を出て行く。ドアの所で振り返るとき、さっきよりも笑っていた。――というより、嘲笑っていた。



「ああ、面白いことになりそうだ。」

くっくっと含み笑いをする。

「あれ?ティエリア、どうしたの?」

廊下にいたティエリアにアレルヤが話しかけた。

「そうだ、アレルヤ・ハプティズム。来週は地球に降りるぞ。ついてこい。」

アレルヤの周りには、疑問符が飛び交っている。

「珍しいね。ティエリアがそう言うなんて。もちろん僕はついてくよ。」

そうと決まれば、準備だな。と、ティエリアはアレルヤを引っ張って廊下の向こうに行った。





刹那は今日もいつも通り朝早く起きて筋トレをしていた。そうこうしているうちに、一つの事実を思い出す。

「……誕生日か。今日は。」

自身にとって大したことではないのだ。肉親は自ら引き離した。自身を産んでくれた事について感謝する人もいなければ、自身の成長を喜んでくれる人もいない。今更、ただ歳を取るだけの日に何の意味があるのだろう。
大体の筋トレを終え、隣から貰った筑前煮の残りを食べて今日は何をして過ごそうかと考える。休暇が一週間以上もあることは面白くない。その間、エクシアから離れなければいけないからだ。ロックオンとかがちょっかいに来るかと思っていたが、休暇に入ってから何の音沙汰も無し。少しは――つまらないものである。

 ピンポーン

チャイムが鳴るので、玄関へ行く。隣だとありがたい。筑前煮がもうすぐ無くなるから、またいただけるとありがたいことこの上ない。
しかし、予想に反してそこにいたのは、

「ロックオン……。」

「久しぶり。元気にしてたか?」

「あんたが来るまでな。」
「…酷いな。」

「冗談だ。」

よく見ると、ロックオンの両手には買い物袋がいくつも下げられていた。

「…何をするつもりなんだ?」

満面の笑みでロックオンは答える。

「刹那、今日誕生日だろ?手料理でも食うか?」

なぜ今日が俺の誕生日と知っている。しかも、疑問系なのに確定的な発言なのはなぜだろう。しかし、成長期の刹那は食べ物の誘惑には勝てない。

「食べる。」

「じゃあ、これから作ってやるよ。上がるぞ。」

よくよく考えて、さっきの所で否定していたらどうなるんだろうと思う。まあ、なんだかんだ言って有無を言わさず部屋に上がり込むだろうが。

「へえ…一人暮らしって聞いて、さぞや汚いんだろうと思っていたが…綺麗だな。あぁ、でもキッチンは汚いな。食器は使ったらすぐ洗えよ。てか、自炊はしてるのか?」

「すまない。これから洗うようにする。それとあまり料理は作らない。隣から貰う。」

「ふーん。お、これか。へえ、筑前煮?ずいぶん家庭的だな。まさかコレか?」
小指を立てる。

「親父か。ただの、気の弱いうえに押しが弱く女に弱い男だ。」

ロックオンは隣の部屋を見つめ、哀れむような表情をした。

「まあ、それはともかくキッチン借りるぞ。」

筑前煮の話はここでスルーらしい。

「構わない。好きにしろ。」

そう聞いて、嬉々としてキッチンに向かっていった。



「ところで、ティエリア?これってのぞk…。」

「違うな。似ているようで違う。」

「でも、明らかに刹那とロックオンの部屋がよく見えるんだけど…。」

「偶然だ。」

「…さっき言ったことと矛盾してない?はあ…僕は憂鬱だよ。」





ふと、キッチンの方から甘い香りが漂ってくる。食べ物は好きだが料理には興味がないので、暇だからテレビを見ている。そんなときに甘いが漂ってくるのだから気になって仕方がない。

「何を作っているんだ?」

気になって、キッチンの方へ行く。ロックオンがホイップクリームを泡立てているところだった。

「んー?誕生日と言ったらケーキだろ?あいにく、簡単なものしか作れないけどな。」


刹那に笑いかける。その笑顔は軽くくすぐったい。

「ケーキなんて作ってもらったことがない。」

刹那は複雑な表情を浮かべる。生まれ育ったところはそんな余裕はなかったから…――


「そうか。俺はよく母親が何かあるごとに作ってくれたんだよ。」

明るく言っているものの、暗い影が落ちてきたことが感じ取れる。

全体的に暗い空気が刹那の部屋を包み始める。そんな状況を打破したのは隣人の声だった。

「沙慈ー!早く行こー!!お弁当持ったぁ?」

「ルイス…そんな慌てなくても桜は逃げないよ。ゆっくり行こ?」

「やぁよ!場所が無くなっていたら嫌だもの。ほら、早くー!」

互いに笑いがこみ上げる。
「ぷっ…なあ、おまえが行っていた隣人って、あの男の子か?」

「くっくっ…ああ、そうだ。」

ふと、ロックオンは思う。

「そういえば、桜って言ってたな。ここら辺に咲いてるんだな。」

「そうだな。あまり、俺は見に行ったことはないが。人混みが嫌だ。」

「そうか…――なあ、ケーキと弁当持って俺たちも花見にしないか?嫌ならいいが…。」

ロックオンは問いかける。
「…別に構わない。ああ、良い場所を知っている。」
「ホントか!じゃあ、早く作っていくか!しかし、桜の木の下で誕生日を祝ってもらえるなんて幸せだな!」

ロックオンの手が刹那の頭を包み、少しばかり子供扱いをされたような気がしたが気にはならなかった。



「ママー変なお兄ちゃんとお姉ちゃんが木の上にいるよー?」

「こら!見ちゃいけません!」

「…ティエリア、いつまでここにいるんだい?」

「事の次第をある程度まで見てからだ!」

「僕、お昼ご飯食べてきたいんだけど…。」

「ほら。」

あんパンを差し出される。
「準備いいね。その前に、僕達は刑事で張り込んでるわけでもないんだけどなぁ…。」

「気にするな。もう少しで何か進展がありそうな気がするんだ。」

「うん…ハレルヤ。僕もそう思う。こんなことしてるなんて……僕は、人でなしだ。」
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