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□ソラ:無音:窓辺にて
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静寂

無音


それは、最もティエリアの好むもの。
そんな自室で本を読んでいた。

今はミッションが無い。他のマイスターは地上へ下りると言っていた。
己にとって、騒がしいモノがいなくなってせいせいしているというのに。



「静か…………だな」



普段なら全く感じない空虚感。
ページをめくる音さえ静かだと感じてしまう。

パタン、と読んでいた本を閉じる。
腰掛けているソファーに、頬を埋めるようにして横になった。
紫の絹糸がさらさらと流れる。


大好きな静寂が、いつから苦痛になってしまったのだろう。
それもこれも、他のマイスター達のせいなのだ。

「勝手…に、人の領分に…入って、来やがって……」

まどろみたいけれども、何かが邪魔をする。

楽しそうな笑い声、話し声。
自分には無縁だと思っていた。…嫌いだから。
なのに、傍にいればいるほど、それが普通になってしまった。


「っ………」


馬鹿みたいに下らない思考を巡らせるなんて自分ではない。
こんな気分から抜け出す為には、こもっていては駄目だ。少しは部屋から出ることも必要である。

廊下に出て、辺りを見渡す。
宇宙は当たり前に無音。他の所にクルー達はいるのだろうが、自身の周りは、ただ空虚が広がっているだけ。

これでは部屋の中と同じ。己に感じる穴を埋める為に、あてもなくさまよってみる。


さながら、迷子のように。


「…」























「………あぁ、―――」
「うぅん………そうじゃ……」
「……おい………のか?―――」

「……?」

不意に聞こえる声。
声のする方は食堂の調理場。
しかし、今の時刻は深夜3時。太陽の回らない宇宙だって、体内時計はあるだろう。
こんな時刻に食堂にいるやつは体内時計の狂ってる奴か、欠食児童のどちらかだ。

けれど興味はある。だってその声は、似ていたから。

そっと覗く。瞬間、ティエリアはとても目を丸くした。


「ティエリア?」
「あれ?部屋にいたんじゃないの?」
「おー、お前もするか?」

「お前等……」

そこでは刹那、アレルヤ、ロックオンが料理を作っていた。
それぞれエプロンを付け、刹那は鍋の前に。アレルヤはそれを見るような位置に。ロックオンは既に出来上がっているものをつまんでいる。

「……何を、しているんだ」
早速、眉根を寄せたティエリアは疑問を投げかける。
「見てわかんないの?料理作ってるんだっ」
にこやかな笑顔で、マルチーズのエプロンを恥ずかしがる様子もないアレルヤは、さりげなくティエリアの手を引き調理場へ招き入れる。若干の抵抗をしたものの、アレルヤに伝わるはずもない。

「食べてみて、くれないか?」

今出来たばかりなのだろう。湯気の立つ肉じゃがを差し出され、少々戸惑う。

「食ってみろよ。刹那、料理上手いんだぜ?」
「ロックオンはさっきから食べてばかりですもんね」
「…」

箸を手渡され、拙いながらもそれを使って食べてみる。

「美味い…な」

刹那の料理の腕はそれなりだった。
それよりも、と箸を置いて口を開く。

「お前等は地上に下りたんじゃあないのか?」

「んー?いや、刹那が料理教えてくれって言ってよ」
「うん。それで僕達と作ってるの」

若干会話が噛み合わないが、大体の意味は伝わった。しかし、それでも腑に落ちないこともある。

「それなら、地上の自宅で作っていればいいだろう。それに、刹那。なんで急に料理なんか」

俯いて、刹那はぽつぽつと話す。

「俺に…出来ることって何があるだろうか…って思って。みんな優しいけど、俺は何もしてないなって…」
「それで料理を?」
「ああ…。手先なら少しは自信があるし、ロックオンがじゃがいもを好きだって言ってたし……」
そこでちらっとロックオンを見やる。


というより、それが本音だろう。
まあ、それはそれで刹那らしい。


「でも、スメラギさんやクリス、フェルトたちにもあげるんでしょ?」
「ああ…」
柔和な顔で、アレルヤは話しかける。刹那もそれにうなづく。

「――喜ぶんじゃないか?」
「…あ、あぁ」

刹那はその言葉に驚く。
普段はそんな言葉なんか発さない人からの言葉だからか。
いや、刹那はティエリアの顔を見ている。
そこでやっと気付く。自身の顔が綻んでいることに。

「………」

「どーしたー?」
「どうしたんです?」

投げかけられる言葉も届かない。

そうか。やっぱりそうなんだ。
こいつらは勝手に俺の領域に入って来ている。でも自分は許している。
それはなぜか。


――居心地がいいから、だろ?


他愛のない話。仲間という連帯感。
今まで持つことのなかったそれらは、とても温かい。


「くっ………くくっ」


思わず零れた笑い。
周りはキョトンとしている。

「本当にどうしたんですか?」
「…ティエリアらしく、ないな」

「いーや、なんでもない」

ひとしきり笑った後、周りを見回す。

「ただ、理解しただけだ」

何を?と他は思ったが、ここで追求したら機嫌のよいティエリアはどうなるか分からない。

「さて、何を突っ立っている?料理を作るのだろう?手伝ってやる」

いつもの不遜な態度へ戻り、刹那からさい箸を取る。
いまいち状況が飲み込めないものの、それがティエリアだと悟って、半ば呆れながらも互いに顔を見合わす。

「よろしく頼む」

ティエリアに対して、刹那は相変わらずの無表情のまま受け答えをする。





――ああ、この場所は居心地がいい。
しばらくはこれも悪くない。













【後書き】
…久々のティエリアを書きました。
動かしにくいな…。
そもそも、トレミーに調理場ってあるのかなあ…。宇宙空間だもんな…。
しかもタイトルは某キャラソンをいじったやつだし…。

かなり内容はぐだぐだですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。



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