花の天使T

□〜土方〜4
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 某日





 今日もいつものように見回りをしていると、あの娘が店の外で品出しをしていた。



 話した事なんてない。いつも見かけるだけだった。



 アイツは、いつも見ている俺なんて気づいちゃいねェだろう。





 別に気づいてほしいとか、それ以上の事なんて俺は望んじゃいねェ。

 ――だが思った矢先に、それ以上になるキッカケが出来た。





 店を通り過ぎようとした俺は品物を出し終えて立ち上がったアイツがフラ、と倒れそうになったのを見て慌てて支えた。



「オイ、大丈夫か?」

「――あ、すみません」

「具合でも悪ィのか?」

「チョット立ちくらみしただけです」



 恥ずかしそうに言う娘。



「そうか。大丈夫なのか?」

「はい。ご親切に、ありがとうございます」

「……いつも、よく頑張ってるな」



 お辞儀していた娘は俺の言葉に驚いたように顔を上げた。

 大きな瞳で俺を見る。



 初めて、まともに顔を見た。



 素直に綺麗だと思った。横顔も綺麗だったが、その何倍も。



「いつも?」

「見回りの時ここを通るからな。よく、お前を見かける」

「見回り? ……お巡りさんなんですか?」

「ああ、近くに屯所がある。俺は真選組の副長、土方十四郎だ」

「真選組の方ですか。あたし、まだ江戸に出てきたばかりで名前は聞いたことあったんですけど」

「出てきたばかりなのか」



 道理で見ない顔な訳だ。



「もう、この辺は慣れたのか?」

「いえ、まだそんなには」

「なら、俺が案内してやろうか?」



 娘は大きな瞳を更に大きくして俺を見た。



 言ってからハッとした。これじゃ、まるでナンパみてェじゃねェか。

 ――違う。俺はただ、この江戸をよく知ってもらいてェだけだ。



「そんな、悪いですので」

「悪かない。見回りのついでだ」

「でも……」

「……ま、無理にとは言わねェよ」





 この時、無理にでも約束しておくべきだった。



 そうすれば、あんな想いをしなくて済んだのに……





 そういや、名前も聞きそびれていた。





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