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□紅い蝶
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紅い蝶
[ さあ、と手を差し伸べる ]
夜、真暗闇の中、紅い翼を携えた蝶が、ひらひらと羽を羽ばたかせて目の前を通り過ぎていった。
「ぁ…」
捕まえようと手を伸ばした、刹那。
ストンという小気味のいい音を立てて刀身の細い剣が古くなっている木の壁に突き刺さった。
その剣の先は、先ほどまで自由に飛び回っていた紅い蝶を捕らえていた。
見事に躯の中心を貫いて。
その紅い蝶に自由という言葉を重ねて見ていた純白い翼の持ち主は、その場にぺたりと座り込んだ。
「蝶なんて、ただの害虫でしかないんだよ」
壁と蝶を貫いた剣の持ち主は、少年の傍に膝を付き、剣を引き抜いた。
命が尽きた蝶ははらりと剣から抜け落ちると、蝋燭の火に焼かれ、存在を消した。
「どうして…」
少年は蒼い青年を見上げ、呟いた。
青年は優しげに微笑むと、少年の頬を撫でた。
「君に必要なのは、そう。蒼だ。自由でも紅でもなく、戒めと、蒼なんだよ」
青年はスッと目を細め、少年を見つめた。
「さぁ、」
差し出された手を見た少年は、静かに涙を流した。
「さあ、僕の手を取って」
ほら、と言って笑う青年は、あくまで優しげな表情をしていた。
「僕は…」
紅い蝶
(自由に、なりたかった)
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