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□赤い糸で
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赤い糸で

[ 結ばれていると信じたい ]





「ハセヲさん、話があるんです。」
Δ隠されし 禁断の 聖域 に来てください。
そういい残すと、アトリはカオスゲートから転送されて行った。
「…アトリ?」
ハセヲはアトリを見送ると、カオスゲートへ向かった。

*


Δ隠されし 禁断の 聖域
グリーマ・レーヴ大聖堂

『ここは……志乃…、』
ここは志乃が三爪痕にPKされた場所だ。
アトリはどうして此処に、俺を…?
とりあえず、ハセヲは転送の完了を確認すると、アトリの姿を捜した。
アトリは、AURA像の前に立っていた。
「アトリ」
「ハセヲさん…?」
少しぼーっとしていたアトリに声をかけると、アトリはピクリと反応し、くるりと振り返ると、控えめに微笑んだ。

「えと…アトリ、話って…なんだ?」
「え、あぁ…そうでした。」
前から話したいことがあったんです。
アトリは俯いて、言った。
「だけど、話せなくて…」
少し、寂しそうに。
「でも、今なら…今なら話せる気がするんです!」
聞いて、くれますか…?
ハセヲはただ、黙って頷いた。

「私ね、ずっと前から、あの…ハセヲさんの事が……あの、その…」
「アトリ?」
アトリは、さっきからハッキリしない。
『話せる気がするって、あれはどうしたんだ?』
ハセヲは次の言葉を待ちながら、AURAの像を眺めた。
──この世界に愛想つかしちゃたのかもね
『見放された、か…』
ハセヲはチラリとアトリの方を見た。
と、その瞬間─
「ハセヲさんっ!!」
「っ!?」
突然大きな声で呼ばれ、思わず跳ね上がった。
「ななな、なんだよアトリ!」
それをなんとか誤魔化そうとするが、意味がなかった。
アトリは全く気にしていないようだった。
「ハセヲさん!あの、わ、わたしっ…ハセヲさんのことが、す…」
「す?」
なんのことかさっぱりなハセヲは、次の言葉が気になった。
「す」
「…」
「すき、です!」
かぁーっと顔を赤く紅潮させるアトリと、理解できていないハセヲ。
「すき?」
ハセヲはアトリに聞き返した。
「〜〜〜!!もう、何度も言わせないでください!」
アトリは恥ずかしがりながらも、ハセヲの目の前に立った。
そして、どこから取り出したのか、その手には赤い糸が握られていた。
「これ、なんだかわかります?」
「あ?ただの糸だろ」
恋愛やまじないなどには全く興味の無かったハセヲに、その赤い糸が何を意味するかなど、わかる筈もなかった。
「もう!わかってないですね」
アトリはハァ、と小さくため息を吐くとハセヲに話し始めた。

「この糸にはですね?ちゃんと意味があるんです。」
「へぇ。どんな?」
ハセヲは途中途中、適当に相槌を打ちながらアトリの話を聞いた。
「赤い糸で繋がっている二人は結ばれるんですよ?ロマンチックですよね〜」
「…ふぅ〜ん」
つまらなそうに返事をするハセヲに少しイラッとしたアトリは、ハセヲに訊ねた。
「そういえば、さっきの答え、聞いてなかったです。」
「さっき?」
なんのことだったかと思い返すハセヲに更に苛立ちを覚えたアトリは、堂々と言い張った。
「さっきの告白のことです!」
「あぁ!」
ハセヲは思い出した、と手を叩いた。

「えっと、俺は…」
困ったように頭を掻くハセヲのことを、アトリはじっと見つめていた。
『話しずれぇ…』
ハセヲはそう思いながらも、続けた。
「俺は、志…」
「いやあぁぁぁあッ!!」
それ以上は聞きたくないというように、アトリは両手で耳を塞いだ。
「あっ、アトリ…!?」
アトリに近寄ろうとしたとき、ポロリと黒い雫が聖堂の床に零れた。
『まさか、AIDA!?』
ハセヲはスケィスを呼ぶかどうか悩んだが、元から呼ぶ時間なんか無かったようだ。

「ハセヲさん…ハセヲさん…!」
黒い涙を流しながら近づいてくるアトリは、あの時のようにとても哀しそうだった。
「ねぇ、ハセヲさん…そんなこと、言わないで下さい…」
私はそんな答えが聞きたかったんじゃない。
アトリはどんどんAIDAに侵食されながら、赤い糸をハセヲに見せた。
「赤い糸…私たち、結ばれますよね…?」
「で、でも繋がってない…っ」
繋がっていない。
そう、二人は赤い糸で結ばれていなかったのだ。
アトリはそれを否定するように、首を振った。
「見えていなくても、見えなくても、きっと私たちは繋がっているんですよ。きっと…ふふ」
アトリはふ、と微笑むと、ハセヲの首に腕を回した。
「アトリ!?」
「ねぇハセヲさん。赤い糸、信じますか?」
アトリは静かに、混乱しているハセヲに気づかれないように、慎重にハセヲの首に糸を巻きつけた。
しっかりと巻いたことを確認すると、アトリは膝でハセヲの鳩尾を打った。
「がッ…!?」
アトリは床に崩れ落ちたハセヲに跨り、両手に糸を巻きつけた。
「ぐ…かはっ、アトリ、テメェ…いきなりなに…」
一瞬息が出来なくなった。
アトリの方を見ると、にこりと笑っていた。
『まさか…』
「アトリ、何、してんだ…?」
問うが、返事が無かった。
おかしい。
アトリが、あのアトリがシカトするわけ…
「ハセヲさん、私は貴方が好きです。貴方は?」
これで最後ですよ?
そういうと、アトリは手から力を抜いた。
もうハセヲの問いに答える余裕も無いようだ。
アトリはハセヲの答えを待っている。
自分にとって、最高の答えを…
『ハラを、決めるか…』
ハセヲは一度、ゆっくりと深呼吸をすると、アトリの目を見つめた。
「俺は、俺は…志乃のことが好きなんだ!」
言い切ると、アトリから目を逸らした。
「ぃゃ…なんで…どうして?どうして私じゃないの…?」
震える声で呟くその姿は、痛々しくてとても見ていられない。
「私はこんなに好きでいるのに!いつもいつも、私は選ばれない…。もう嫌なの!イヤアァァァァアア!!」
そして、アトリは壊れた。

「大好きですよ、ハセヲさん」
「く…は、ぁッ…!」
ぎりぎりと赤い糸で首を絞める。
「ほら、見てください!私たち、赤い糸で結ばれてます!」
アトリの両手からのびた糸は、ハセヲの首に繋がっていた。
細い糸が、ギチギチとハセヲの首に食い込んでいく。
「ア…トリ…も、やめ…」
「ハセヲさん、私ね、ずっとずっと貴方のことが好きでした。でも、貴方はいつも志乃志乃志乃って…。そんなに志乃さんがいいですか?そんなに志乃さんのことが好きなんですか!?私はハセヲさんのことが好きなのに。大好きなのに!…志乃かと思えば、次はオーヴァン!?どうして私じゃないんですか!?ねぇ、ハセヲさん!…私じゃ、ダメですか?ねぇ、ハセヲさん…私を見てください。私を、私だけを…。ねぇ…、ハセヲさんは、私のこと…好きですか?ねぇ…?」
アトリは上手く呼吸が出来ないでいるハセヲに問いかけた。
「…っ……ハッ…」
小さく呼吸をするのに必死なハセヲは、応えることが出来なかった。
そんなハセヲの口元に、アトリは耳を近づけた。
言える筈もない答えを聞くために。
「ハセヲさん?…す、き…?本当ですか!?嬉しい!やっと、やっとハセヲさんの一番になれた!これで、やっと…!…ねぇハセヲさん。私と、ずっと一緒に居ましょう?ここなら誰も来ませんし。どうです?いい考えでしょう!私とハセヲさん。ふたりだけでずっとここに…」
そう言って笑うアトリは、どこか
寂しそうで。
アトリの目から零れたのは、涙ではなく、
黒い…
「アト…リ…」
そこで意識は途切れた。



ギュウギュウと、これ以上絞まらないというぐらいまでアトリは糸を引っ張った。
糸を引っ張ったまま、抱きつくようにハセヲの胸に顔を埋める。
そのまま胸に耳を当てるが、音がしない。
「ハセヲさん?」
返事も無い。
眠っているのだろうか。
『綺麗な寝顔…』
私のもの。
私の大好きなハセヲさん。
もう何処にも行かないで。
私から離れないで。
私の傍から居なくならないで。
私の声にだけ耳を傾けて。
私の話だけを聞いて。
私だけを見て。
私以外のものは見ないで。
私以外の名前を呼ばないで。
私だけを呼んで。
私だけを見て。
私だけを必要として。
私だけに優しくして。
私だけに…


「もう、放しませんよ、ハセヲさん。これからは、ずっと一緒です…」



私たちは赤い糸で繋がっているのだから。




赤い糸で
(ずっと繋がっていたいの)


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