BW特設部屋

□小話
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トウヤに連れられてやってきたカノコタウンで、Nは町から少し外れた木陰でぼんやりと海を眺めていた。カノコタウンは都会の喧騒とは程遠く、流れる時間は穏やかだった。緑溢れるここでは、自然とポケモンたちとの触れ合いも多くなる。

始めは研究者を毛嫌いしていたNも、アララギとポケモンたちとの信頼関係の在り方を見せられて、その見解が幾分であるが和らいでいた。


「君も日向ぼっこかい?」
「――…。」


草むらから、Nのことを窺っていたヨーテリアに向かって、Nは優しく言葉をかけた。ヨーテリーは豊かな体毛を地面にこすれる寸前まで揺らしながら、ゆっくりとNまで近づく。小さく彼が上げた鳴き声に、Nは少しだけ目を丸くした後、苦笑を零しながらヨーテリーに向かって謝罪をした。


「…ごめん、ここは君の場所だったんだね。あんまり気持ちいいから、ずっと居座ってしまっていたよ。」
「…―。」


Nの言葉に、今度はヨーテリーが目を丸くする番だった。まさか、言葉が通じるとは思っていなかったのだろう。Nがカノコタウンに来て間もないこともあり、彼の存在は周辺に住むポケモンたちにまだ認知されていなかった。

ヨーテリーはNの傍に擦り寄ると、Nの膝の上に頭を置いた。少しばかり警戒しているものの、ヨーテリーに恐怖の色は見えない。Nはそのヨーテリーの頭を優しく撫でた。

気持ちよさに目を閉じたヨーテリーに、Nもつられるようにして瞼を閉じた。




「―…!N!」

「…ん?」


ポケモンではない者に声をかけられ、Nの意識は浮上した。ゆっくりと瞼を開ければ、そこには少々怖い顔をしたトウヤの幼馴染の姿。チェレンは目を覚ましたNに溜息を吐くと、呆れたように額を小突く。


「って…。」
「全く、どこにいるかと思えば…。もう夕方だぞ。トウヤも探してたし、この辺は夜冷えるんだ。」


風邪引くよ、とチェレンは表情を崩して柳眉を下げた。そして、Nの膝の上にいたヨーテリーに目を向ける。彼もN以外の人間の存在に気づいたのだろう。敵意は向けていないものの、警戒心を露わにしてチェレンを見ている。

チェレンはそんなヨーテリーの様子に苦笑を零し、その頭をごくごく自然な動作で撫でた。あまりに自然な手つきに、ヨーテリーも拒否することもできずに為すがままになっている。しかし、だからと言って嫌悪を顕わすのでもなく、しまいには気持ち良さそうに目を細めていた。


「ごめんね、この人を連れて行ってもいいかな?」
「――…。」


チェレンの言葉にヨーテリーは少しばかりNの方に向けて名残惜しそうな顔をしたが、Nに向かって何事かを言うと、ぴょこん、とNの膝から飛び降りた。


「…うん、またね。」


草むらに向かって歩みを進めるヨーテリーに、Nが嬉しそうに呟くと、チェレンはぽんぽんとNの背中を叩いた。


「約束、できた?」
「うん、今度は彼のトモダチも連れてくるって!」

「そう、よかったな。」


チェレンの言葉にNが嬉しそうに頬を染める。Nはチェレンより年上であるはずなのに、こういう表情を見ると、強く庇護欲を掻きたてられた。

ああ、これにトウヤが惹かれたのかと、チェレンは考えを巡らせる。純粋過ぎる、無垢過ぎるNは世界を映す鏡だ。だからこそ、彼の映す世界は綺麗なものであって欲しい。

汚れた世界を見ないようにするなど、そんなことをいうつもりはないが、汚いもの、残酷なものを見過ぎてしまったNに、せめてこれからは綺麗な優しい世界があることも知って欲しい。

トウヤの言葉ではないが、チェレンもそれに近い感情は抱いていた。


「チェレン君?」
「…あ、ちょっと考え事をしていただけだよ。さぁ、町に戻ろう。トウヤもくたくたになりながらあなたを探しているよ。」

「えっ…!じゃ、じゃあ早く戻らなきゃ…!」


急にわたわたし始めたNに、チェレンは苦笑を零しながら、自分よりも少しだけ大きいNの手を引いて、幼馴染の待つ家まで歩いて行く。


そして待っていたのは、汗だくになっていたトウヤだった。




(ただ穏やかな日々が貴方にあるように)









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