BW特設部屋
□小話
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キュレムに一度別れを告げ、Nはトウヤと共にリーグまでやってきていた。おずおずとNが見上げる先にいたのは、眉間に盛大な皺を刻んだアデク。明らかに怒っているだろうアデクにNが少し引き気味になる。
しかし、トウヤが背中を押さえているため後ずさりすることはできなかった。
「おう、トウヤ君。久しぶりだな。」
「お久しぶりです、アデクさん。」
にこり、とトウヤが笑ってアデクに挨拶をする。豪快な見た目に反して穏やかな声を紡いだアデクだが、それが向けられたのはトウヤだけだった。やはり、自分はここに来てはいけなかったのだろうか。そんな思いがNを支配する。
今は復興しているとはいえ、このリーグはプラズマ団により一部を破壊された過去を持つのだ。厳密に言えば、Nは首謀者ではないのだが、それでも責任の一端はNにある。
笑顔で迎えてくれたトウヤが特別だったのだと、Nの中で間違った認識がなされようとしていた。
「で、ようやく見つけたのか。」
「はい。」
「君の根気には感服するな。…ありがとう。彼をここに連れてきてくれて。」
アデクはトウヤに向かって嘆息した後、小さな声で礼を言った。トウヤが目じりを下げて笑顔を浮かべる。そして、アデクがトウヤの隣にいるNに目を向けた。
「N君。」
「っ、」
「何をそんなに固くなっているんだ。ほら、もっとよく顔を見せてくれ。」
大きなアデクの手がNの顔に添えられる。温かな手にNの肩がビクリと跳ねた。
人との接触を最低限にしかしてこなかったNは、ほとんど関わりのない人間に触られることに慣れていないのだ。その様子にアデクが苦笑を零す。いきなり触るのはまずかったかとトウヤに目を向けるが、彼はただ微笑んでいた。
そのことにアデクは少しだけ目を見開く。そして同時に納得した。ああ、彼も同じことをやったのだと。
「あ、あの…!」
「ん?ああ、まだ一番大事なことを言っていなかったな。」
「え、」
困惑したNの表情にアデクが優しい笑顔を浮かべる。さすがにトウヤに連れられてやってきたNを初めて見た時は、心配と黙って姿を消したNへのやるせなさから表情を歪めてしまったが、こうして無事な姿を見ればこれまでの感情は霧散してしまう。
今のアデクにあるのは、歓喜と愛しさだけだった。
「おかえり、N君。」
優しいアデクの声がNに向かって放たれる。それを受けたNは言葉を失ってしまった。てっきり激怒されるのかと思っていたのだ。侮蔑の視線を浴びせられるのかとも思った。
しかし、アデクがNに向けたのは全く正反対の温かい感情だったのだ。
「あ、僕…は…、」
「ほら、こういう時に言う言葉があるだろ?」
ぽん、とトウヤがNの背中を軽く叩く。困惑したNが視線を彷徨わせれば、Nの言葉を待っているだろうアデクと目が合った。
気恥ずかしい。そして同時に、こんなにも満たされていいのかとも思う。この言葉を言う資格が自分にあるのかと、Nは自問を繰り返した。
けれど、じっと言葉を待つアデクとトウヤにNの心は次第に外に向かって扉を開いていく。やがて、少し震える声でNが紡いだ言葉は、トウヤとアデクが何よりも望んでいた言葉だった。
「…た、だいま…。」
言った瞬間、Nはアデクのたくましい腕に抱きしめられ、トウヤの満足そうな笑い声がリーグに響き渡ったのだ。
(おかえり、愛しい人!)