BW特設部屋

□小話
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「N…!!」


ようやく見つけたNの姿に、トウヤは思わず駆け出した。早く会いたい、早く彼に触れて、もう一度ちゃんと話をしたい。しかし、トウヤがNに辿り着く寸前、巨大な尾が地面に叩きつけられ、洞窟が揺れた。


「うわっ、」


舞う砂塵にトウヤが一歩下がる。見上げれば、そこには巨大な氷のドラゴンがいた。その冷たい瞳から放たれるプレッシャーに冷や汗が流れる。すぐそこにNがいるのに、このドラゴンがNを守るように佇んでいて近づけない。

トウヤがNに危害を加えるのだと思ったのだろう。ドラゴンはトウヤに向かって、絶対零度の氷の息吹を吐き出した。


「くっ…!」


パチパチと音を立てて空気が凍っていく。しかし、反撃することはできなかった。ドラゴンのすぐ傍にNがいるのだ。ここで攻撃をしようものなら、攻撃の余波はNにまで及んでしまう。

トウヤがどうするべきか考えていると、目を閉じていたNが異変に気づいたのか、ゆっくりと起きあがった。


「キュレム…?どうしたの?」


ぼんやりとした瞳をキュレムに向けて、Nはそっと氷で覆われた翼を撫でた。すると、キュレムはトウヤに放っていた息吹を止め、どこか甘えるようにNに擦り寄る。

攻撃が止んでほっと息を吐いたトウヤは、Nの姿を捉えるなり、走り出した。


「N!!」
「…、トウヤ…くん…。」


キュレムを撫でていたNは、トウヤの存在に気づき、驚いたように目を見開いた。Nの異変に気付いたキュレムが、彼を庇うようにトウヤとの間に立ち塞がるが、それは他ならぬN自身の手によって遮られる。


「大丈夫だよ、キュレム。彼はとても優しい人だから、」
「…――、」

「うん、そう。…ありがとう。」


キュレムをひと撫ですると、Nはトウヤの前にゆっくりと歩いてくる。その顔がどこか困っているように見えるのは、こんな場所まで来たトウヤに対する心配なのか、それとも見つかってしまったことに対する困惑なのかは分からなかった。

けれど、Nの性格から推測するにその両方なのだろう。トウヤはNに近づくと、言葉を交わすことすらせずに彼に抱き付いた。


「N―!!」
「わっ…!」

「――…、」


トウヤに抱きつかれ、バランスを崩し倒れかけたNをキュレムがそっと支える。Nは視線でキュレムに礼をすると、まるで子供のように抱きついてきたトウヤに言葉をかけた。


「トウヤくん?」
「っこの馬鹿!!」
「え、」

「突然いなくなるなよ…!心配するじゃないか!俺も、チェレンも、アデクさんだってお前のこと心配してるんだぞ?!」


ようやくNに会えたことで我慢していたものが切れたのか、トウヤはポロポロと涙を零しながらNに言葉をぶつけた。泣きながら怒鳴られたNは、どう反応していいか分からず、とりあえず彼を落ち着かせるように優しく彼の背を撫でる。

しばらくして落ち着いたのか、トウヤはNに抱き付いたまま真剣な表情で彼に告げた。


「N、俺と一緒に行こう。」
「…なぜ、」

「お前に、もっといろんな世界を見て欲しいんだ。…これは俺の我儘だけど、お前と友達になって、いろんなところを旅して、たくさんの絆で繋がってるポケモンと人の世界を知って欲しいんだ!」


トウヤの言葉に、Nは思わず言葉に詰まる。限られた世界でしか生きてこなかったNには、それは本当に未知の世界だった。傷つけられたポケモンと、愛情を知らない自分しかいない世界で育ってきたNには、トウヤの言葉は未知であると同時に恐怖でもあった。

これまで信じてきた世界を壊される恐怖。けれど、それは自分自身の過ちに気づく恐怖と言ってもいい。Nは既に人とポケモンの絆が、どんなに尊く大切なものであるかを、他ならないトウヤによって教えられている。

Nの葛藤に気づいたのだろう。トウヤは彼を安心させるように微笑んで、今度は優しくNを抱きしめた。


「大丈夫、ずっと俺が一緒にいるからさ。たくさん色んなものを見て、たくさん笑って、皆と一緒の世界に行こう?」


一人だけの寂しい世界ではなく、皆が笑い合う温かい世界へ行こう。

トウヤの言葉に、Nはおずおずとトウヤの背に腕を伸ばす。微かに震えるその腕がトウヤの背に回った瞬間、今度はNが静かな涙を流した。

温かい涙が、まろい頬を伝いトウヤの顔に落ちてくる。呆然と涙を流すNを大事そうに抱きしめ、トウヤは彼が泣きやむまで自分より少し大きいNの背を撫でていた。



(ようやく彼を一人きりの世界から連れ出せる)











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