その他
□絡みつく糸
1ページ/1ページ
「あんたは色んなものに縛られてるんだね。」
闇色のローブが風によって波打った。柔らかな桃色の髪の毛は、月明かりによって怪しい光を放っている。
彼女はアルヴィスに向かって憐れむように言った。
アルヴィスはドロシーの憐れみを含む目に顔を顰める。なぜ自分が彼女に憐れまなくてはならないのだ。
「どういう意味だ。」
「そのままの意味よ。そのゾンビタトゥだけじゃない。ファントムやダンナっていう人への思い、ギンタンたちへの思い…いろんな思いにあんたは縛られてる。」
見ていて苦しそうなんだ。
顔を歪めて、ドロシーはアルヴィスを見つめた。見つめられたアルヴィスは眉を寄せる。
縛られているわけじゃない。自分はファントムはともかく、彼らを重荷に思ったことなどない。
しかし、目では反論していても言葉が出てこなかった。それは彼女の言葉を心のどこかで認めていることに他ならない。
「どうして、あんたは自分から苦しい道を選んでしまうの?」
「…それはお前じゃないのか、ドロシー。」
苦しい道を選んでいるのは彼女も同じ。ドロシーは己の姉を殺すという悲しい道を進んでいるのだから。
しかし、ドロシーは首を振る。
違う、と。自分とアルヴィスは違うのだと、彼女は首を振った。
「私はカルデアの掟がある。私がディアナを殺したいわけじゃない。…自分で決めたわけじゃない。」
掟という免罪符がある。
その言葉にアルヴィスは瞠目した。震えているのだ、あのドロシーが。これがギンタの前であったならアルヴィスとて驚かなかっただろう。しかし、今ドロシーが全てを曝け出している相手はアルヴィスなのだ。
「なぜ、それを俺に話す。」
「あんたには知って欲しかった。私は自分で選んでこの道を選んだんじゃない。選ばざるえお得なかったんだ。でも、あんたは自分でこの道を選んだんだろう?」
無言で答えを返すアルヴィスにドロシーは静かに近づく。そして、自分よりも僅かに低いアルヴィスに抱きついた。
ギンタに行うようなものではなく、すべてを包み込む母のような抱擁。
「あんたは強い。でも時には弱音を吐ける人がいないと、壊れるよ。」
「ドロシーが俺に弱音を吐いたようにか?」
くすり。アルヴィスの耳元でドロシーの笑いが零れた。自嘲のような、しかし安堵しているようにも感じられる笑い。
「自分の仲間が欲しかったのか。」
ギンタやスノウ、ナナシたちではなく、アルヴィスを選んだドロシー。
秘密を共有できる、絶対の信頼を置ける相手が欲しかった。ギンタやスノウではあまりにも素直すぎて、弱音など吐けないのだ。特にスノウの前では。
「あんたを縛るものの中に私も入れてくれる?」
「俺を苦しめるものに、お前がなると?」
先ほどのドロシーの言葉を返してやれば、彼女は笑った。温かい、優しい魔女の微笑み。
「苦しめる糸の中に、安らげる糸があってもいいじゃない。」
苦しめるものを安らげるものに変えてあげる。