その他

□苦痛の陶酔
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アルヴィスの身体を蝕み続けるファントムの刻印は、その禍々しい輝きを抑えようともせずに月明かりの下で蠢いている。

受け入れてしまえばいい。ファントムに依存しているといっても過言ではない、ロランから言われた言葉。その言葉はアルヴィスを苦しめた。
受け入れてしまえばいい。
その言葉が、どれだけ自分にとって甘美なものであったかなどロランは知らないだろう。ロランだけではない。彼にアルヴィスと対峙するように指示したファントムでさえ、それは分かり得ないことであったはずだ。

ましてや、アルヴィスのことを盲目的にと言えるほど信じきっているギンタたちには、考えもしないことだったに違いない。


「…もう、時間がない。」


己の思考まで忌々しい刻印に冒されてきている。ファントムのことを考えるだけで、安らぎを覚える心など欲しくないのに。安らぎを、信頼を覚えるべきはギンタやナナシたちといった仲間であるのに、なぜ憎むべき敵に安堵の感情など覚えるのだ。

アルヴィスの心は今や計り知れない闇の中にあった。唯一、闇の中で彼を繋ぎ止めているのは、仲間たちとの絆。一筋の尊い光だけだった。

闇の中にあって、唯一見失わないもの。
尊ぶべき、仲間との絆。


「俺は…絶対にアイツと同類になどならない。」


服の上から蠢く烙印を押さえ付ける。まるで抵抗するように暴れる痛みに、アルヴィスは小さく呻いた。しかし、彼は烙印を押さえつける。

決して、闇の誘惑になど負けはしない。
ロランに甘美な言葉を囁かれようとも、烙印に、ファントムに屈することはしない。

それは、自分自身への誓い。
幼き日、死ではなく戦うことを選んだ時から、進むべき道は決まっているのだ。


だから、


「…ファントム…。」


お前を倒す。
たとえ、この痛みすら愛おしいと思っても。












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