その他

□囚われの瞳
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初めて会った時から、幸村は政宗の瞳に囚われた。まるで虜囚の如く、幸村の心は政宗の瞳の中で鎖に繋がれてしまったのだ。

幸村はそっと政宗の瞳に手を伸ばす。数多の命を奪った手が、澄んだ瞳に触れる。真っすぐに幸村を射抜く眼光は揺らがない。それどころか、彼は悠然と微笑んだ。幸村は政宗の頬に手を添えたまま動かない。静寂の中、最初に口を開いたのは政宗だった。


「どうした?」


その声は酷く落ち着いている。好敵手でありながら、最大の敵である幸村が目の前にいるというのに、一分の気の乱れも感じられない。あるのはただ静寂だけだ。幸村は政宗の頬に添えた手を僅かに震わせ、彼の隻眼に映る己の顔を見つめた。

そこにいたのは、心の苦痛に苛まれる己の姿。その無様とも言える姿に幸村は眉を寄せた。

政宗はそんな幸村の様子を無表情で見つめている。しかし、すぐに口元は弧を描いた。まるで、快感を待ちわびているような、そんな表情。


「Ah?どうした、幸村。…お前の顔を俺の最期の記憶にしてやるから、早くやりやがれ。」


それは、何という殺し文句だろう。今ある命も、光も、触れる肌の温かさも、全て幸村の記憶と引き換えに失おうとしているのに、この落ち着いた声は、瞳は、一体なんということか。

それに引き換え隻眼に映る己の姿の、何と情けないことだろう。まるで竜に怯えているようではないか。


「…確かに、拙者が貴殿の記憶に残ること、これほど幸福なことはない。しかし…、」


一旦言葉を切って、幸村は政宗の瞼を閉じさせる。澄んだ瞳が隠れてしまった落胆より、情けない己の姿を見なくて済む安堵の方が勝っていた。

これでは、竜の記憶に残る虎でいることはできない。

幸村は瞼を閉じたままの政宗に向かって、囁くように言葉を紡いだ。


「貴殿の目に映ることが某にとって至上の幸福であるように、某が貴殿にとって至上たる存在になるまでは、この瞳の光、失わせはせぬ。」


だから、今はこれだけで。

次に政宗が感じたのは、瞼に触れる温かい口唇だった。




(既に囚われているというのに、なんと言い訳がましいのだろうと笑わずにはいられなかった)










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