その他

□無罪は不可能
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「なぁ、あんたあのフラッグに何したんだ?」


ライルが心底不思議そうな顔をして刹那に問いかけた。
問われた刹那は、フラッグという単語にピシリと固まる。できれば思い出したくない、関わりたくない人物だ。
刹那が固まっている様子に気づかず、ライルはさらに続ける。


「いつもいつも、俺らには目もくれずあんたばっか追いかけまわしてさ。まるで好きな奴に迫るストーカーみたいだな!」


その通りだ、お前なかなか洞察力があるじゃないか。

刹那はそうライルに言ってやりたかった。言ってやりたかったが、己のプライドの為にそれは我慢した。何が悲しくてあんな男に好意を寄せられねばならぬのだ。
ライルが冗談で言っているのは表情から見ても間違いないだろう。ありえない、と笑いながら言っている。しかし、その冗談こそが真実である。何せ、刹那には耐えがたい過去の真実というものが存在した。


「楽しそうだね。何かあったの?」
「…アレルヤ、楽しそうなのはロックオンだけだ。」


笑顔でこちらに近づいてくるアレルヤの言葉に、ティエリアがやんわりと否定を入れる。刹那はこれ以上この話題を掘り返されてはたまらないと、その場から立ち去ろうとした。しかし時すでに遅く、ライルはある種禁断の一言を彼らに放ってしまっていた。


「お前らも思わないか?」
「何が?」

「あのフラッグが刹那にご執心だってさ。」


言いやがったこの男。
刹那の心境は、今現在そんなところだろう。見た目には無表情な彼だが、内心は大いに混乱していた。何故かは知らないが、アレルヤとティエリアは自分に対して甘い。甘いというには少し語弊があるかもしれないが、他の者たちよりも気にかけられている自覚はあった。
自覚があったからこそ、刹那はあのフラッグに乗っているのが「あの男」だと知られるのはまずいと思ったのだ。何せ、アレルヤはともかく、ティエリアはあの男に対して怒りの感情を覚えていたのだから。相乗効果で殺意にまで発展するのは、まず間違いないだろう。その理由が、自分の女装姿に振り向かないからだというのは、何とも言えないものだが。


「そういえば、この前も刹那にだけ執拗に迫ってたね。」
「…誤解を招くような言い方をするな。」


心底嫌そうに眉をよせて呟けば、ティエリアが静かに問う。


「まさかとは思うが…知人などではないだろうな?」
「誰があんな変態とっ…!」


とんだ誤解だ。誰があんな、戦闘中に愛だのと敵にほざく輩と知人であってたまるか。あいつはただの変態だ。まだ16歳だった俺を押し倒そうとしたんだぞ?しかもミッション中とはいえ生徒の立場にあった俺を、教師だったあいつが。ありえない。ロックオンが来てくれたから未遂で済んだものの、もう正直戦闘ですら関わり合いたくない。鳥肌どころか全身が拒否反応を起こす。


「…刹那。それ、本当?」
「本当じゃなければこんなこと言わな…。」


刹那はそこまで言って気が付いた。もしや自分は今思ったこと全てを口に出していたのだろうか。慌てて顔をティエリアたちに向けると、彼らは神妙な顔をして頷いた。
ライルは「兄さんよくやった!」と自分の兄の行動を褒め称えている。その点に関してはいい。刹那も感謝している。
問題は不穏な空気を放つ二人。ティアリアとアレルヤだ。ティエリアは当時のことをまだ根に持っているのか、その秀麗な顔に凶悪な笑みを浮かべている。米神に浮かんだ筋は見て見ぬふりだ。自分の精神衛生上のためにも。

そしてアレルヤは、ティエリアとは対照的に穏やかな微笑みを浮かべている。だが、その微笑みが常の温かい笑みではなく、とても黒いものだということに気づいてしまった。微笑みが怖いと感じるのは久々である。あのときはロックオンが…いや、これは今関係ない。


「刹那、今度は僕がフラッグの相手をするから、刹那はここを守っててね?」
「僕も行かせてもらおう。ロックオン、刹那と共に行動してくれ。」
「言われずとも。」


立て続けに展開されていく会話に、刹那は口を挟む間もなかった。というか、ライルとティエリアはこんなに息が合っていただろうか。先代のロックオン(つまりニール)であれば違和感などない光景だが、次代へと変わったライルとでは、どうしてだろうか。とても黒い何かが見える気がしてならない。

刹那が思考に沈んでいると、足元のハロが軽やかに跳ねた。


《キニシタラマケ!マケ!》
「……何に負けるというんだ…。」


とりあえず、次の戦闘では彼らの言うとおりにしようと決めた刹那であった。








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