その他

□忘れられない
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「刹那。」


ダブルオーの調整をしていた刹那に向かって、沙慈がどこか怒っている声で話しかけてきた。その場にはティエリアやアレルヤ、ロックオンといった他のマイスターたちもおり、彼らは二人の方へと目を向けた。
当の刹那はというと、沙慈の声に気づいているのに一向に顔を上げようとしない。
黙々と端末に向かう刹那に、沙慈はやれやれと溜息をついた。


「…刹那、君はいつまでそうやっているつもり?」
「お前には関係ない。」


瞬殺。
事の成り行きを見守っていたマイスターたちの頭に、そんな言葉が浮かんだ。刹那の性格を長い付き合いでよく理解しているティエリアやアレルヤは沙慈に向かって、やや同情的な視線を向ける。ロックオンはというと、最年少マイスターである刹那の、予想していた通りの反応に苦笑していた。


「刹那ってば、まだ食事しないで続ける気かなぁ。」
「少しはましになったかと思えば、彼のアレは変わらなかったのか…。」


アレルヤの言葉に、ティエリアが疲れたように言った。
これが初めてではないのだ。沙慈が刹那の食事状況を咎めるのは。
初めは刹那も沙慈も、まだ残るシコリからお互いに敬遠しがちだったが、沙慈が刹那の食事を抜く癖を見つけてからは、生来の世話焼き気質からなのか、沙慈は刹那をよく気に掛けるようになった。


「いいんじゃねーの?あいつら、あれで結構楽しんでるように見えるぜ?」
「…刹那は、少し違うと思うよ。」
「同感だ。」


アレルヤは少し暗い表情で言うと、ティエリアも表情を歪ませながら同意した。二人の反応に、どういうことだ、とロックオンが二人を見ると、アレルヤは刹那の方へ目線を映した。
それに従うように刹那へと目を向ける。そうすれば、彼らが言った意味が分かった気がした。


「問題ないと言っている。」
「問題なくなんてないだろう。これで何回目だと思ってるのさ。」


沙慈と刹那が静かに攻防を続けている横で、ロックオンは見たのだ。
刹那の瞳に宿る、懐古の色に。
どうしようもなく、懐かしいと、苦しいという心の色を。

彼は確かに見つけた。


「とにかく、続きはご飯食べてからだよ。」
「お、おいっ…!」


ずるずると強引に刹那を引っ張っていく沙慈。
事の成り行きを見守っていたアレルヤは、微笑みながら二人に向かって手を振った。

二人の姿が見えなくなると、アレルヤは振っていた手を降ろして寂しげに声を洩らす。


「…気づいただろう?」


誰に向けられた言葉なのか、ティエリアは瞬時に理解し、些か険しい顔をする「彼の」片割れに目を向けた。


「……ああ。ったく…あの人は……。」


面倒なもの残しやがって…。

何が彼らの間にあったかなど、新参者の自分が知る筈がない。知る筈がないのに、何故かこれだけは理解してしまった。
彼は、彼らはニールを思い出していたのだ。

あの鉄壁の青年が心を崩す要因など限られている。その最も大きな要因の一つがニールであったことは、アレルヤから聞いて知っている。
兄が、半ば父のように刹那に接していたという過去。

同じように自分の世話を焼く沙慈に抱いた、懐古の念は十分すぎるほどに理解できた。


「刹那が本気で抵抗したら、沙慈君は敵わないしね。」


付け足すようにアレルヤが言う。
確かに、戦闘を生業とする刹那と一般人の沙慈では、いかに体格差があろうと力が強いのは刹那の方だ。刹那が本気で抵抗しないのは、彼自身が感じる懐かしさに良かれ悪かれ、身を少なからず任せているからなのだろう。


(兄さん、あんたすげぇな。)


ライルは今は亡き兄の大きさを知った。





―その頃の食堂

「まだちゃんと食べ終わってないじゃないか!もっと食べなきゃダメだよ!」
「…お前はいつまでいるつもりなんだ。」
「なんだか、お母さんみたいだね…。」
「…フェルト、見てないで助けてくれ…。」


沙慈(とフェルト)に見守られながら、黙々と食事を続ける刹那がいた。







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