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□この手を離さない
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そして12月31日、午後11時30分。
最寄の神社はあまり人もいないし静かだろうからと進める蓮二に対し、一杯人がいる賑やかな所の方が良いと主張する赤也に負けて、二人は3駅先の神社へ行くこととなった。駅から互いの家の方向は違うし、改札前で待ち合わせれば良いのを、赤也は絶対に俺が迎えに行きますから!と言って聞かなかった。赤也的には、愛しい恋人を迎えに行く、と言うシチュエーションに大きな価値があるのだ。
普段ならばそんな夜分に人の家を訪ねるなど非常識極まりないことだが、大晦日ともなれば、年明けの瞬間を迎えるため、日付が変わる頃まで起きていることもそう珍しくはない。初詣参拝客のため、電車も夜通し運転しているくらいなのだから。
「センパイ、着物じゃないんスかー?」
そういう訳で、赤也は柳家、大きな日本邸宅の門の横のインターフォンを勢い良く押した。程なく蓮二の母親の声が聞こえ、中へと促される。玄関の戸を開けたのは赤也の大好きな人で、その姿を認め、こんばんはと破顔した。
「着物を着て初詣に行くのは考えなしのすることだぞ。人に揉まれて着崩れるのがオチだ」
「・・・・・・そうかもしれないけどー。見たかったなー」
色が白くて艶を帯びた真っ黒の髪の蓮二には着物が似合うだろうし、絶対絶対綺麗なのに。残念そうに見上げてくる赤也にふ、と微笑を向け頭を撫でて、蓮二は行って来ますと屋内に向かって声を掛け、赤也の手を引いた。
「・・・・・・・・・ま、そのうちな」
突然の、自分より大きな掌と細い指の温もりに、赤也は驚いて勢い良く蓮二の顔を見上げた。
「ん・・・?何だ?」
蓮二は恥ずかしがり屋で、誰に見られるかも分からないような往来で手を繋ぐことを極端に嫌がる。と言うか、まず確実に誰も来ないと予め分かっている場所以外で恋人らしいこと―――――手を繋いだり、キスをしたり、などである―――――をするのを頑なに拒む。
赤也は元来人の目など全く気にしない性質だから、そのことを酷く不満に思っていて、キスはともかく手を繋ぐくらいしてくれても良いのにと、常々思っていた。
夜とはいえ人通りの多い大晦日。なのに自ら手を握って来た蓮二。赤也が驚くのももっともだった。
「・・・何でもないっス」
大きな目を不思議そうに向ける赤也を見つめ返す蓮二の瞳は優しくて、赤也はそれ以上の言葉を発するのを止めた。下手なことを言って気が変わってしまっても困る。蓮二の方から手を繋いでくれることなんて、今を逃したら次はいつやって来るか分からない。
「センパイ、付いたら何お願いする?」
「・・・・・・合格祈願」
「そんなのつまんないし!大体、そんなのお願いしなくても受かるでしょ?」
「それはそうだが」
「だったら、もっと違うことにしましょうよー」
「・・・・・・例えば?」
駅に近づくにつれ、二人と同じ目的なのであろう人が増えていく。
けれど蓮二は手を解く気配を見せなかった。蓮二はコート、赤也はジャンパーを着ているせいでお互いの手元は見え難くなっているし、街灯に照らされているとは言え昼間とは違った暗い夜間では、行き交う人も擦れ違うくらいでは手を繋いでいるなんてわからない。
もっと、昼でもいつでもこんな風にしてくれたら良いのになと淡い期待を胸に抱きながら、赤也は隣を歩く蓮二との会話を楽しんでいた。
「んー、俺ともっと一緒にいられますようにとか?」
「却下」
「えー!?酷い、そんな即答しなくても!!」
程なくして駅に着くと流石に人目を憚って手が離される。無くなってしまった温もりを惜しみながら、深夜でも賑わう電車に乗る。
同じ目的地の人ばかりで、3つ目の駅で車内からホームにどっと人が流れ出る。
人の波に飲まれてはぐれないように今度は赤也の方から蓮二の手を取り、ぎゅっと握り締める。
蓮二が一瞬渋い顔をしたがそれには気付かない振りをして、赤也は何事もなかったかのように話を続けた。
「先輩は俺と一緒にいたくないんスかー!?」
「・・・・・・・・・そんなことは言ってない」
「じゃあ何でッ!」
神社へ近付くにつれて人と屋台の数が増えて行き、りんご飴やら綿菓子やら焼き蕎麦やら、縁日のような光景が続く。
境内に入ると賽銭を投げ込む音や手を叩く音、がらんがらんと大きく鳴る鈴が耳に入る。赤と白の装束に身を包んだ巫女さんが様々な種類のお守りを売っていて、帰りに一つ買って帰ろうかなと蓮二はちらりと目線を向けた。
そして、自分の提案に良い色を見せない蓮二に対し不服を隠さない赤也の方に向き直った。「・・・・・・・・・わざわざそんなこと願わなくても、お前はいつだって俺の側にいるじゃないか」
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