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□この手を離さない
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そういえばこの人は俺より一つ年上なんだよなと、こんな時、赤也は思い知らされる。

世間はクリスマスを待たず冬休みに突入していて、無論それは赤也の通う立海大附属中も例外ではないのだけれど、強豪と名高いテニス部には世間の休みなど関係ない。年末は30日まで、年明けも4日から練習。雨が降ろうが気温にマイナスが付こうがお構いなし。トレーニングルームでも体育館でも何処でも使って、練習は行われる。
真田・幸村が部を纏めていた頃は勿論、赤也が部長に就任してからも、それは変わらなくて。厳しい練習に疲れた身体で、でも大切な人には無理をしてでも絶対絶対会いたくて、せめて本当の年末年始くらいはと初詣に誘って、蓮二が良いよと言ってくれた時は、凄く嬉しかった。彼と出掛けることだけを楽しみに短い冬休みを部活に捧げていたと言っても過言ではないのだから。
「センパーイ、12月31日の夜から出掛けましょうよー」
「・・・・・・・・・子供だけだと危ないだろ」
「大丈夫っス、ウチの親、柳先輩と一緒に行くって言ったらそれなら良いって言ってたし!」
未成年・・・しかも未だ義務教育中の子供だけで夜遅く、人の溢れ返る寺へ初詣に行くというのは、世間一般の親からしてみれば好ましくないことだ。子供だけで出掛けて何かあったら、と心配するだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・信頼されていると取って良いのやら・・・」
「?どうかしたんスか?」
「・・・・・・いや」
だが赤也の親は、蓮二と一緒なら構わないと言う。しっかりしているから心配ないということなのだろうが、どうにも実年齢以上に老けているから、と言われているようであまり好い気はしなかった。
中学生に見られないのには不本意ながら慣れているが、保護者扱いされるのは彼の本意ではない。だって、蓮二は赤也の保護者ではなく恋人なのだから。
「ねー、良いでしょー。行きましょうよー!」
「まぁ・・・構わないが・・・・・・」
「マジっスか!?やったー?」
蓮二には、最近あまり赤也を構ってやっていないなと言う、一種の負い目のようなものがった。内部進学とはいえ彼自身が受験生であること、赤也がテニス部の部長となったことが主な原因なのだが、赤也はそれでも納得していないだろう。強豪男子テニス部の部長として部員を纏めなければならない立場にあることは、赤也に相当なストレスをかけている。メールや電話はしているが、毎日顔を合わせていた以前と比べて、赤也が今の状況を不満に思っていることを知っている。だからたまには我侭を聞いて付き合ってやるのも良いだろう、と思い至ったのだ。
手を上げて子供のように喜ぶ赤也に蓮二は苦笑して。仕方がない奴だなと、愛しそうに見つめる。
「・・・・・・合格祈願しておくのも良いだろうしな・・・」
「・・・えっ・・・?」
「え、とは何だ。俺は受験生だぞ」
「あ―――・・・そうっスね」
そういえばこの人は俺より一つ年上なんだよなと、思い知らされた気分だった。
夏の大会が終わって、三年生が引退して。その時にも何か焦燥感のようなものがあったけれど、あともう少しで部はおろか学校からもいなくなってしまうのだと考えると、無性に悲しくて、寂しかった。
赤也が立海に入ってからずっとずっと蓮二はいたのに、もうすぐ置いていかれちゃうんだと思うと、泣きたいくらいで。
赤也は無言で蓮二の腰にぎゅっと抱き着いた。
「・・・・・・どうした?赤也」
赤也は傍若無人なところが多分にあるが、基本的に甘えたな性格をしている。幼い子供のように抱き着いて来るのも擦り寄って来るのもさほど珍しくはないから、蓮二も特に驚きはしない。
いつもしているように、柔らかな癖っ毛を大きな掌で優しく撫でる。
「・・・・・・・・・何でもないっス」
赤也は甘えたで、蓮二は彼に対してかなり甘い。甘やかし過ぎているかもしれないと思うことが多々あるくらいには、自覚もある。どうしたって優しい口調になって、でも赤也がちょっと拗ねたみたいに何でもないと言うから、それ以上の追求は止めた。
あまり煩いことを言ってしまって、本格的に機嫌を悪くされても面倒だ。
12月25日土曜日、午後。クリスマスさえも部の練習のために潰されてしまった赤也がプレゼントだけでも渡したいからと蓮二を呼び出した、彼の自宅近くの公園で。31日大晦日からの初詣が決定したのだった。
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