†贄の翼†
□†贄の翼†堕天使の降る谷〜嘆きの庭園〜
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嘆きの庭園
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堕ち続けて、いったいどれくらいたったのだろう。
あの空飛ぶ船を離れて以来、雲ひとつないまっさらな空のみが、瑞杞の視界を覆っていった。
こうも空中に放置されていると、空とはこんなにも広いものなのかとつい考えてしまう。
引っ越した家の部屋隅の窓から見上げていたこの空のなかに、いま自分は存在している。
雲も見えず、薄い群青がひたすら面積を埋めていた。
空の中にだけ、自分の自由を掲げられるような気さえするのだ。
これで自由に羽を広げられたら‥‥そんなことを思いながら、今現在に至るまでの出来事を、瑞杞はゆっくりとたどっていた。
『どうせ俺を政府に売り渡すにきまってる!!』
あんな大きな声を出したのは、久しぶりだった。
落ちる直前、もう死んでもいいんだと思った。どうせ殺されるなら、身を汚さずに死にたい、と。
失うものはもう全て失った___他人に自分の存在意義を期待するなんて、どうかしていたに違いないよ。
でも、こんな状態で独り放置されれば、俺みたいな馬鹿でもやっぱり頭は冷える。
自分が何をしたか、恥ずかしくて頭から火が出そうだ。
飛び降りてすぐ、バルコニーの端から、龍王の声が聞こえた。
まるで詠唱しているみたいな声だったが、首を持ち上げることもできないほどの風圧だったから、見てはいないのだけれど。
そのあとすぐ、自分の落下しているスピードが半減してしまって、それからいっこうにスピードが早くなる気配はない。
現在もなおそのスピードで堕ち続けている。
驚くことに、3分ほど前(といっても随分昔のように思えるが)、雲を通り抜けたときも全く息苦しさを感じなかったし、服も乾いたまま、冷たいとも何とも感じない。
その時にうっすらと見えたのが、皮膚や服の上を覆っている、とても薄い膜のようなもの。触れることはできなかったけど、なんだか温かかった。
きっとこれは、龍王さんがやったんだ。
あくまでも想像に過ぎないが、落ちているあいだずっと、龍王さんが近くにいるような感覚がまとわりついていた。
今もそう。背中がほんのりと温かい。
あんなにひどい事を言ったのに、なぜあんな優しさを見せるのだろうか。それとも、また捕まえて、売るつもりなのだろうか‥‥‥わからない。
俺は、手放しの優しさは苦手だ。甘えていいのか悪いのか、分からなくなる。
それが無償の優しさじゃないことは分かるし、嘘だと知ったときに自分がどうなってしまうか分からないから、その優しさには答えられない。
なんて浅ましい。
本当の自分は違うんだと心で叫びながら、薄汚い心しか見せられない自分がいる。
自分の心をも疑ってしまいそうで、両腕で身体をぎゅっと抱きしめた。
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