短編
□まっすぐここに
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仕事が終わった後は、彼はいつもまっすぐここに帰って来た。
今回もそう。
泣く子も黙る幻影旅団、彼はその団員の一人。
私たちは幼い頃から多くの時間を過ごし、兄弟のように仲が良かった。
恋愛感情?そんなものはない。
私たちは家族を持ったことはないけど、それに近い感情だろう。
才能には個人差があるものだ。
私は念という力を使えない。
だが、彼の仕事は理解している。
そして彼が強い奴だということも理解している。
いつものように別れは突然やってきた。
…と言っても彼にとっては全然突然じゃないようだが。
『今回は全員集合だとよ。
場合によっちゃ蜘蛛設立以来の、でけー仕事になりそうだ。』
そう言った時の彼の背中に浮き出た肩甲骨が妙に忘れられない。
なんとなく不吉なものを感じたのは、『設立以来の、でけー仕事』という響きのせいだろうか。
今頃彼は戦っている。
もちろん、仕事中ずっと誰かと戦ってるわけじゃないだろうけど、今は戦ってる、そんな気がする。
何故だろう、気分転換に散歩に出たはずなのに、青く澄んだ空が痛いほど胸を締めつける。
足元の草を、かかとで思い切り踏みにじる。
草のにおいが広がった。
別にこの草に罪や恨みがあるわけじゃないけど、なぜだろう、そうせずにはいられない。
私はグリグリと執拗に草を踏んだ。
いつだって彼は仕事が終わったらまっすぐここに帰って来る。
そう、今回もきっと同じ。