短編

□まっすぐここに
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私は彼の好きなミートボールを煮込む。

なかなかいい味だ。

彼は私の作るミートボールが一番好きだとよく言う。

だからというわけじゃないけど、我ながら自分のミートボールは相当美味しいと思っている。




コンロの火を弱めた時、突然玄関の扉が開く音がした。

チャイムもならさずにうちの扉を開けるのは、彼と泥棒くらいしかいない。

…彼自身の職業も泥棒みたいなものだけど。



黙ってオタマを動かしていたら、背後に人が立つ気配がした。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」


肩に置かれた大きな手が冷たく感じる。

「ミートボールか。
 俺の好物だな。」


だから作ったのよ。

きっと今日、帰って来る気がしたから。






夕食の楽しい一時を過ごした後、彼は寂しそうに微笑った。

「そろそろ行くぜ。」

「もう、行くのね。」

その顔を見て、私も少し微笑む。

大丈夫、私、わかってるわ。



私の体が彼にそっと抱きしめられる。

今まで一度もされたことのない行為だ。


「世話になった。」


お礼を言われるのも初めて。


そう思うと目頭が熱くなる。



あれ・・・
どうしたんだろ、私、泣いてるみたい。



熱いものが頬を伝う。


いつも暑苦しく感じるほどの彼は、ひんやりとした指で私の涙を拭う。


「ありがとう、帰って来てくれて。」

体の大きい彼を見上げて、精一杯笑ってみせた。







去って行く彼の大きな背中を見ていると、また妙に肩甲骨が目につく。


「ありがとう。」


闇に消える彼を見つめ、もう一度呟いた。

大丈夫、私、わかってるわ。

最後に帰って来てくれたのね。


今朝、あなたが"団長"と敬愛するクロロから電話があったの。

「ウボォーは、死んだ。」

そう、それは、あなたの死を告げた電話。







仕事が終わった後は、彼はいつもまっすぐここに帰って来た。

もちろん今回も、そう。
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