言の葉

□涙のテーマ
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中央のスペースの右どなり 小さな部屋がある部屋からは真っ黒なピアノの音が流れてくる。

(ああ‥またこの曲か‥)

高い音程で少しゆったりとしたメロディ

――少し 悲しい感じのする曲だ

俺はいつものように扉に頭を凭れさせその様子を見入る。

漆黒のピアノでそのメロディを奏でているのは
緑の髪で 自分と同じ“赤”を着ているニコル。
その隣には先輩に当たるミゲルが金色の髪をなびかせている。
それはまるで神聖な地に足を踏み入れるような不思議な感覚。

「お、イザークじゃん!」

「え?」

ミゲルがこちらに気付いて指をさす

「!」

「どうした?ニコルに何か用とか?」

「‥何故そこでニコルになるんだ」

「え〜?だって俺‥
「人に頼まれるほど優れた能力ないですから この人。」

ミゲルの言い掛けたことを代わりにニコルが答えた。
多分、その台詞はミゲルが言おうとしていた台詞に間違いないだろう。

「ふっ‥そうだったな。」

「コラコラお前ら先輩を何だと思ってるんだよ!」

「本当の事でしょ」

「‥‥‥ニ〜コ〜ル〜」

「わっ!?ちょっ‥やめて下さ‥ぁははははは!」

少し黙った後ミゲルは襲うようにニコルの脇腹をこしょばした。

その光景は傍から見たら
ただいちゃついて居るようにしか見えなかった。


「―愛しのアスランは今日は一緒じゃないのか?」

二人だけの空間をじっと見つめて呟いた。

「‥イザークこそ、愛しのディアッカは一緒じゃないんですか?」

だがそれもニコルには逆に返されてしまう。

「ディアッカは俺様の下僕だっ!
お前こそ俺の質問に答えろ!!」

「今日はさ、ニコルが‥
『ミゲルに側にいて欲しい‥』って囁くから一緒に熱い一時を‥」

「ミゲルもイザークと同じで偶然通りかかったんです」

「いつも隣に居るじゃないか!偶然なわけなかろうっ!!」

カッとなって俺が声を上げてしまうのも無理はないだろう。
見つける度にニコルはこの曲を弾いて、ミゲルは後ろで聞いている。
この曲が流れる時はいつも側に居るのだこの二人は。
それを“偶然”などと言われては溜まったものじゃない。
だが 何故かミゲルはいやらしい笑いを浮かべていて、
ニコルも笑っていた。

「っ‥イザークだって、いつもその時居るじゃないですか」

「正確にはいつも三人だな」

「‥‥‥!」

俺のは違う。


偶然なんかじゃなくて‥



「ニコルは、戦争が終わったらすぐピアノを弾きたがるからな」

「ミゲル!!」

「――?」

「俺の時も頼むよ」

「‥嫌ですよ。絶対」

クスクスと笑いながら話す二人。

ニコルは少し歪んだ顔を無理矢理笑わせている。
“三人”と言う割には 二人の世界を作っている。
やはりこの場合“二人”で間違いないだろう。
ただ、ミゲルだけが知ってるニコルの事を 俺が知らないのは嫌で仕方がなかった。



*****




戦争が始まって、ミゲルが死んだ。


ナチュラルからMSを奪いに行った時だった。
回収に成功した俺達はさっさとザフト艦に戻った。
只一人 ――アスランを除いて。
アスランが回収失敗したMS<ストライク>は
圧倒的な強さでその場にいたザフト軍を殺したとの
通告があって その中にはミゲルの名前があった。



(‥ニコルがいない)



足が 進む方向はわかっていた。



いつものあの場所




同じ曲が流れている。



―パシュッ―



とシッターが開いた



そこには期待していた風景はなかった。
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