言の葉

□泣きたくなる
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あなたに見つめられてしまうと泣きたくなってしまうのです、




「君って意外と何処にでも居る顔してる」

ふん、と鼻先で笑って雲雀さんはそんなことを言った。
外の定期的なざわつきはドアを閉じることによって遮断されコツコツと彼の足音が応接室に響く。
それを追うように後から別の音も響く、それは、

(心臓、うるさい……)

耳障りな音はあの人の足音が近くなれば成る程大きく早く脈打って身体の内から俺に逃げろと警告していた。

「…どこにでも居る顔で悪かったですね…」

そう言い返せば上で笑う息遣いが聞こえた。


どくん


どくん


どくん


心臓が 早鐘を打っている。


雲雀さんにまでこの音が聞こえてしまうかと思った。

「なにをそんなに脅えてるの?」

するり、と長い指先が俺の髪を絡めて遊んでいる。指先はゆっくりと下に落ちて親指の腹が頬を撫でた。

「何もしないよ」

彼はそう言うけれど。
狩るようなその視線を向けられるだけで俺の身体は震えて目眩を起こしてしまいそうになるのだ。

(こわい)

こわい

こわい

こわい

(あ、泣きそう…)

じんわりと浮かび上がってきた液体を見せてはならないとぎゅっと強く目を瞑った。
それが気に食わなかったのか。

「目くらい合わせなよ」

不満げに雲雀さんが言う。
一歩、後ろに後づさる。いつの間にか俺は壁に挟み込まれるようにされていて逃げ場もなかった。


「………っ!?」

そ、と目を開ければ数センチも満たない距離に雲雀さんの顔があった。

「ひ、ひば」

「何?」

じぃ、っと見つめられて顔に穴が開いてしまうかと思った。
それにしたってこの距離は近すぎる。
雲雀さんの顔と言うよりは目だけが見える距離で俯けばぶつかってしまうんじゃないかと思った。

(やめて)

ゆっくりと。綺麗な顔は近づいてきて、閉じた瞼を見ながら綺麗だなぁ、なんて考えた。
触れた唇は柔らかい。黒い髪が額に触れてくすぐったかった。

「沢田、キスするときは目を閉じるものだよ」

「何もしないって」

「気が変わった」

楽しげに口端を上げてまた唇をあわせる。今度は舌が入り込んできて強烈な目眩に襲われた。



「君って意外と可愛い顔してる」



見つめる視線に泣きたくなった。


貴方に見つめられる程 貴方のことしか考えられなくなってしまって俺は、泣きたくなってしまうんです、



end.


雲雀さんはズルい。

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