初めてお前と会った時の事を覚えてるか? あの時‥‥‥目の前を強い風が駆け抜け、確実に何かが俺の中に芽生えた。 |
「武蔵、前より強くなったな。」 一人で旅を続けたくさんの剣豪と剣を交えてきた。 中には古くからの知人もいるわけだ。 その中の一人から強くなったと誉められた。 「当たり前だ、鍛練を休んだ日はないからな。」 「そうではなく、力が強くなったって意味もあるが‥‥‥違うんだ。」 こいつのいいたいことがわからん。 仕合った後、茶屋にて茶を啜りながら、隣の知人は唸っている。 いい言葉が見つからないらしくで、それでも言いたいらしいかった。 「なんというか‥‥‥剣を振るその一太刀に重みを感じたのだ。」 「重み?」 やっと喋ったかと思えば、やはり意味がわからなかった。 もっとわかるように言ってくれ、と頼めば今度は身振り手振りで説明しようとしていた。 「なんだろうな、『強さ』を全面に出していたお前がそうでは無くなった。」 「じゃぁ、どうなったんだ?」 「俺は何かを守ろうとしているような、そう感じた。」 耳を傾けていた俺は団子を頬張る。 何かを守る‥‥‥かぁ。 その言葉に疲れているはずの頭が動きだした。 まだ何か言っている知人の声は既に耳を通り過ぎるだけになっている。 守る、なぜかその言葉を考えたらあいつが、幸村が頭を過った。 どうしてかはわからないが、幸村が思い浮かんだんだ。 「そういやぁ、会ってないな。」 「あ、何にだ。」 「お前には関係ない。」 声に出してしまった俺の考え事に反応する知人。 うるさい、と一言言った後、皿に残った団子を全部頬張ってやった。 そしてそいつと別れた俺は自然と幸村のいるであろう場所へ自然と向かっていた。 「よく来たな、武蔵。」 突然の俺の訪問に嫌な顔一つもせず迎えてくれた幸村。 久しぶりに会い、覚えていた印象と大分違って驚いた。 どう違ったなんて言葉では言えないが。 部屋に通され、茶を用意してくれた幸村はしばらく俺と他愛のない会話を楽しんだ。 会話を続けながら、こんなに長く二人だけで喋ったのは初めてかもしれない、と記憶の中にある過去を思い出す。 そういえばいつも幸村の回りには誰かがいた気がする。 友情を結んだあの二人は当然の事、やけにでかいやつや昔同じ軍にいたからとかで幸村とよく一緒にいる所を見かけた。 そういえば俺が幸村と二人で一緒にいる時にも誰かが間に入ってきたな、と思い出した。 特別仲が良かったわけではないが顔見知りなわけで、あいつらはどうしているだろうか、と懐かしむ。 「そういえば三成殿や兼続殿、慶次殿も皆元気にしている。」 「‥‥‥あんた、俺の考えていたことわかるのか?」 「なんのことだ?」 頭の中を見られたかと思った。 考えていた事を答えるかのように幸村が言うから焦る。 丁度あいつらのことを考えていた、と不思議そうな顔をしている幸村に言ってやれば嬉しそうに笑った。 何でそこで笑うんだ、と思いながら声には出さず、目は固まったまま笑顔を映していた。 そして俺の脈が段々と早くなる。 何だ、これは。 病か何かを患ったのかと思った。 そういえば体も心無しか熱くなってきている。 しかも‥‥‥可愛い、と思ってしまった。 「武蔵、どうかしたのか?」 はっ、と俺は現実に引き戻される。 さっきとは打って変わって幸村は心配そうな顔をしている。 話も聞いていなかった俺はやばいと思い、すまん、と謝罪した。 少し間があったが幸村はそれを快く許してくれる。 小さく気付かれないよう溜息を吐き出し、良かったと俺は胸を撫で下ろした。 折角、誰にも邪魔されずに幸村と二人でいられるんだ。 思う存分今日は語ろう、と思ったところで俺は気付いた。 二人きりだということに。 そう考えたら治まりかけていた動悸が再び動きだした。 意識し始めたらやばいぐらいに手に汗が溜まりだす。 幸村の声は耳に染み込み、だが内容は通り抜けていくばかりだ。 目線を自分の足に向け、たぶん赤くなりつつあろう顔を隠す。 もう、どうすればいいのかわからない。 こんなことは初めてで、俺が俺じゃない誰かになったんじゃないかと思った。 そんな事を考えている時、バシッという音と共に頭に衝撃が襲い掛かってきた。 「何すんだ!」 「お前が人の話をきいていないからだ。」 自業自得だ、と叱られる。 その顔はやはり怒っていた。 「私との会話は楽しくないかもしれないが、だからといって無視をする必要は無いだろう。」 「はぁ?ちょっと待て、幸村。」 「何だ?」 「いつ、誰が、どこでお前との会話を楽しくないって言った?」 「言われてはないが私との会話などつまらんだろう。」 ちょっと待て。 つまり幸村は、俺がつまらないと思っている、と思ったわけだ。 確かに俺が話を聞かずに適当な相槌を返していたのは悪かったと謝ろう。 だけど幸村と一緒にいてどう感じるかは俺が決めることだ。 「俺は嫌いな奴に自ら会いに行ったりしない!」 急に俺が怒鳴るような大声で叫んだからだろう。 今度は豆鉄砲を食らったような顔に幸村はなった。 驚いて、動けない。 目が丸く点になっているのが俺は笑えた。 「なっ!笑う事ないだろう!」 「いや〜、わりぃわりぃ。」 涙目になった俺は未だに笑いが止まらない。 肩を小刻みに揺らしながら耐えようとしているが、そのことは幸村にはバレバレだった。 笑いたければどうぞ、と言わんばかりの目付きで俺を見る幸村に、我慢の限界が来る。 さっきよりも声を上げて笑う俺に幸村は不貞腐れた。 「ほんとにあんたは忙しい奴だな。」 笑ったり、怒ったり、不貞腐れたり。 見ていて楽しいし、飽きない。 そしてやっぱりそんな幸村に可愛いと俺は思い、そして気付いたのだ。 なぁ、こう思うのって、もしかして‥‥‥。 「俺はあんたが好きみたいだ、幸村。」 「なっ!いきなり何を!」 突然の俺の告白に、今度は顔を赤くした。 きっとそうなんだ、俺は幸村が好きなんだろう。 ここに来ての俺の反応はきっとそういうことなのだ。 なんだ、自覚すれば簡単じゃないか。 目の前の戸惑っているその顔に見惚れながら、俺は幸村の上半身だけを引き寄せ、肩に顎が乗る形にする。 そして言い聞かせるように耳に囁いた。 「お前を守れるくらい強くなってやる。だから‥‥‥。」 あの時、俺等が初めて会った時からなんだろう。 あんたに惚れたのは間違いなくあの時。 俺は誓う。 俺は、幸村という守りたい者がいるかぎり‥‥‥強くなるということを。 |
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