ここは三成の自室。 ぱらり、ぱらりと書物を捲る音が二方から聞こえてくる。 一人はこの部屋の持ち主の三成で責務をしているのだろう。 書物を捲っては筆を手に取り何か書き写していた。 もう一人は幸村で三成の背中を見つめながら手だけが書物を捲っている状態だった。 背中に刺さる幸村の視線を気にしつつ三成は責務を‥‥‥責務をしなければならないのだがやはり幸村が気になってそれどころではなかった。 手に持っている筆を置く。 それに気付いた幸村はどうしたのだろうと不思議に思った。 「幸村、俺の背中になにかあるのか?」 くるりと幸村と向かい合う形に向きを変え視線の理由を聞く。 考え事をしていました、と幸村は少し顔を赤らめ、にっこりと笑った。 「考え事だと?」 「はい、三成殿を好きになり良かったと思っていました。」 その言葉に三成は餌を待つ鯉かのごとく口をぱくぱくと動かし驚きを隠せないでいる。 その三成の姿に幸村はくすくすと笑った。 「この乱世に生を受けても人は何万といます。その中で私は三成殿と出会い、三成殿を好きになり、今こうして一緒にいられる。」 幸村の方から三成へ距離を縮めていき、互いの膝が当たるか当たらないかの場所で止まった。 そして幸村は三成の両手を取り自分の頬へと持っていく。 暖かいと三成は思い、幸村も同じことを思ったのだろう。 暖かい、とため息にも似た声色で言ったのだ。 「こういうのを‥‥‥幸せと言うのだろうな。」 「えぇ、私も同じことを考えておりました。」 二人で笑い合い軽い口付けを交わす。 本当に幸せだ、と三成が心の中で思った。 しかし幸村を見れば心なしか不安な表情を浮かべている。 「どうした、浮かない顔をしている。」 「いえ、幸せ過ぎて私には勿体ないと思って。」 はにかみながら少し淋しそうにする。 三成は溜息を吐き口付けを一つ落とした。 突然の口付けに幸村は顔を瞬時に赤くする。 そんな幸村の額を馬鹿者と三成は呆れながらぺしっと叩いた。 「勿体ないとか言うものでない。」 「ですが‥‥‥。」 「お前が幸せならそれだけで俺も‥‥‥幸せなのだ。」 三成は自分で言いながら恥ずかしくなり、ふいっと顔を背けた。 隣からはくすくすと笑い声が聞こえてくる。 笑うな、と不貞腐れながら言ってみたが案の定、無意味に近かった。 「三成殿、違うのです。」 「何がだ。」 「私が笑っていたのは面白かったからではなく、その、嬉しかったからなのです。」 今度は幸村が真っ赤になり、そして柔らかく微笑んだ。 「三成殿の幸せが私の幸せなら、私はずっと三成殿のお側にいなければならないなと。」 そう思うと嬉しくて笑ってしまったのです、と。 「ならば心配することはない。お前は命尽きる迄俺の側にいることになるのだ、幸村。」 「はい、私はこの命尽きる迄、いえ命尽きようとも三成殿のお側に。」 互いの額と額を重ね、目を合わせ再び口付けを交わした。 心の中で今、この幸せが続くようにと願いながら。 |
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