「こんな所にいたのか、幸村。」 「兼続殿、どうかなさったのですか?」 |
ジャリジャリと砂を踏みながら幸村がいる縁側へと兼続は近寄る。 書物を見ていた幸村は兼続が来た事によりパタンとそれを閉じ自分の袂へと置いた。 「どうかなさった、ではない。怪我をしたそうだな。」 幸村の前に立ち、会いにきた用件を言う。 それを聞いた幸村は罰の悪そうな顔をした。 「聞いたら鍛練中の怪我と言うではないか。」 先程、兼続が鍛練所の前を通ったときに稽古中の兵が幸村の怪我のことを教えてくれた。 といっても怪我は掠り傷程度らしい。 見せてみなさい、と言えば幸村は少し躊躇いがちに腕を差し出した。 どこを怪我したのかは勿論兼続は聞いていたのだが、なんとなく幸村自身からその箇所を出してほしかった。 腕を手に取り袖を捲り上げる。 肘から少し外れた場所に赤々と血が滲んだ跡があった。 「まだ痛むのか?」 「いえ、痛みはもうありません。」 その言葉に兼続は安心をした。 傷口をみれば既に手当てはしているらしい。 自分でしたのか、と聞けば幸村は首を左右に振った。 「実は三成殿が傷の手当てをして下さったのです。」 三成という言葉に兼続はピクリと反応した。 幸村は恥ずかしそうに事の一部始終を話し始める。 何やら三成が幸村の鍛練姿を見たいと言った事が始まりらしい。 幸村もそれを快く引き受け、三成の居る前で怪我をし手当てを受けた。 「三成殿が慌てるものですから周りの方達も一緒になって‥‥‥。」 思い出しているのか幸村はクスクスと笑っている。 逆に兼続の顔は険しくなっていく。 何がおもしろいのだ、と自分でも分かるくらいに目つきは鋭いものになっていった。 「三成殿が私の腕を手に取り何度も痛くないかと聞かれるのです。」 三成殿、三成殿、三成殿。 兼続は何回幸村の口から他人の名を聞けば良いのだろうか、とうんざりした。 「心配してくださるのは嬉しいのですが、逆に三成殿に申し訳なく思い……っ!」 兼続はいつまでも喋り続ける幸村の傷口に唇を這わせた。 幸村は当然ながら突然の行動に驚いている。 「何をなさるのですか、兼続殿!」 「三成にこうして手当てしてもらったのだろう。」 舌を出し傷口を舐める。 かさぶたが出来ているためざらりとした感触が伝わった。 「お、やめっ…下さい…っ。」 「何故だ?三成は良くて私は駄目なのか?」 「三成殿はそのようなやり方はしておりませぬ。」 顔を腕から離し幸村に向ける。 幸村の顔は赤に染まっており困った様子で兼続を見ていた。 嘲笑うかのように笑った兼続は再び傷口へ唇を近付け、歯を立てた。 小さく唸った声が耳に届くと同時に口の中へ流れ込んでくる一筋の赤い液体。 それを舐め取り腕を引き幸村との距離を縮めた。 目の前に幸村の戸惑っている顔がある。 そのまま兼続は幸村に口付けた。 貪るように口を塞ぐ。 いきなりの事で息苦しいのか幸村の唇が少し開けられたのを待っていたかのように兼続の舌を中へと入れた。 「かねつ、ぐど…ぅん。」 舌と舌とを絡ませ、吸い付き、口内を侵す。 端から漏れる幸村のくぐもった声に兼続は興奮した。 幸村に覆い被さるように兼続は乗り上げそのまま床へと押し倒す。 息を切らしながら兼続を見上げる幸村の唇に指を這わせ自分のを重ねた。 空いている手で懐から直に幸村を触れば既に堅くなりつつある突起物を見つける。 最初はゆっくりと触り、転がし、押し潰す。 爪で引っ掻けばビクンと幸村は仰け反った。 「ぁっ…かねつぐど…のっ」 おやめください、と声にならない声で訴える幸村。 止まるわけない。 今まで頭の中で何度幸村を汚したことか、何度と夢に見たことか、とフッと笑う。 衣服が乱れ露になる素肌にごくりと喉が鳴った。 口から首筋、鎖骨、腹部へと口付けを降らす。 赤く鏤められた跡に兼続は再び笑う。 幸村に触れた部分が自棄に熱かった。 「んぁ…兼続…っどの、ぁあ。」 繋がった箇所から水音が二人の荒々しい息遣いと重なって聞こえている。 腰を掴みながら前後に動く。 その度に発する幸村の艶めかしい声にどうにかなりそうだった。 「ぃや…かね…つぐどっ……ふぁ。」 「幸村、もっと…私の名をっ!」 幸村の両足を抱え、より深く繋がるため肩に乗せた。 「か、ねつ………っぁあ。」 更に奥へ入った兼続の猛りが幸村を突く。 ぐちゅっと音を立てながら抜き差しされるそれに嬌声は止まることを知らないでいた。 「兼続殿っ、かねつぐど…っあぁ!」 「幸村、名を!私の名を呼んで、くれっ!」 段々と早くなる動きに幸村も自ら腰を振る。 限界が近い。 幸村も言われた通り兼続の名を叫びながら必死に動いた。 「もう…っはぁ……だめ、ぁっ…兼続、どのぉっ!」 幸村の嬌声と共に白濁色の液体が飛んだ。 少し遅れて兼続も幸村の中へと欲望を吐き出したのだった。 ぐったりと幸村は床へ倒れ伏せたままでいた。 ぽたりと汗が床へと流れ落ちる。 と同時に幸村の腹部の上にぽたぽたと何かが落ちてきた。 重い目蓋をゆっくりと開けるとそこには泣いている兼続の姿があった。 声を挙げずに涙を流す兼続に恐る恐る手を伸ばし頬に触れる。 目から流れ出ている涙は幸村の掌を濡らした。 「兼続殿。」 「っ幸村!」 兼続の手が幸村の手に重ねられそのまま両手で包み込むように握る。 額の中心にくっつけぎゅっと力を込めた。 「幸村、幸村、幸村っ!」 止まることの知らない涙と共に懺悔にも聞こえる名を呼ぶ声。 「愛しているのだ、幸村。」 愛している、と何度も繰り返される愛の囁き。 強姦にも近い情事にいくら友とはいえ憎んでもいいだろう相手なのだが、なぜかそんな感情は起きなかった。 それよりも今泣いている兼続を見てとても愛しく感じる。 幸村は未だ握られている手に力を込め兼続の手を握り返した。 |