乙女

□長い髪
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放課後の校舎。
廊下から見える外の風景を窓に手を付きながら暫しぼうっと眺めていた。
元気に部活動に専念している者、仲良く友達同士喋っている者、楽器を手に取り練習している者。
そんな生徒等を眺めながら今開催中のコンクールに普通科から参加することになったバイオリンを弾く少女の事を思い出した。
今頃どこかであの妖精から貰ったバイオリンを練習しているだろう姿を頭に描き小さく溜め息を吐く。


「俺なら絶対にやらないけどなぁ。」


独り言を呟きながら移動しようと顔だけまだ外に向け体を正面に動かした。
と同時にドンと何かがぶつかる音と軽い衝撃。
何事かと確認をすると目の前には今さっきまで頭の中にいた生徒がいた。


「おい、大丈夫か?」


直ぐ様、俺は声を掛けた。
相手はゆっくりと体から離れおでこでもぶつけたのかもしれない、そこを擦りながらすみませんと謝った。


「って金澤先生?」
「ん、なんだ?」
「私、金澤先生にぶつかったんですか?」
「どー見てもそうだろう、日野よ。」


言うな否やまたすみませんと言い一歩下がろうと目の前の日野は動いた。
だけどそれはとある物によって遮られてしまう。
俺の白衣のボタンに日野の髪が絡み付いてしまったのだ。


「あぁ、もう!先生ごめんなさい!」


なんで私の髪は長いの、と文句も吐きながら日野はボタンに手を伸ばし絡み付いた髪を解こうとした。
俺は笑いながら大変だなぁとそれが離れるまで窓の外へ再び目をやることにした。





「‥‥‥お前さんって不器用なんだな。」


未だ悪戦苦闘中の日野は焦っているのか指が上手く動いていなかった。
俺の下にある日野の顔は後頭部しか見えないため想像でしかないがきっと膨れているのだろうなと思った。
仕方がない、か。


「バイオリンを弾いているときは指ちゃんと動いてるのにな。」
「どうせ私は不器用です。」


日野の手を停止させ変わりに俺が外すと言えば小さくうぅっと唸りながら謝ってきた。
その顔は心成しか少し赤らみているようだった。
なんだか笑えてきた俺は笑い声を出さないようにする。
声に出して笑うとますます日野は膨れっ面になるだろうから。


「私、髪の毛切ろうかな。」


女の子の髪、傷付かないようにしていると不意に日野がそう洩らした。
俺が触っていない反対側の髪をいじりながら本気で考えているのかもしれない。
俺の頭の中に短くなった日野を想像しなんだか違うような違和感を感じた。


「ほら、取れたぞ。」
「先生ありがとうございます。」
「ちゃんと前見て歩けよ。」


ポンポンと日野の頭を叩いてやった。
そのまま俺の手は勝手に動いてさらりとしている髪の毛を一束掬う。
突然の行動に日野は驚いていて当の本人の俺も驚いた。
だが手は止まるどころか掬っては指の間から零れ落ちる髪を何回も触っていた。


「俺は、お前さんの髪‥‥‥好きだぞ。」


また勝手に口が動いた。
本気で自分でも驚く。
冗談混じりならまだなんとか誤魔化したり出来るだろうが明らかに口調が違う。
するとまだ触っていた俺の腕を日野が両手で掴んで下へと下げた。
そして大きな声で失礼しますとくるりと俺に背を向け走って行った。
ちらりと髪から覗いた日野の耳は真っ赤だった。





その場に一人残された俺は盛大な溜め息を吐く。


「何やってんだ本当に。」


まだ触っていた手が軽く動いている。
残っている日野の髪の感触を思い出しドクンと心臓が大きく鳴った。


「あ〜面倒くせ。」


小さく誰にも聞こえないように小さく吐き出した。
ガシガシと自分の頭を掻きながら日野が走って行った方とは逆の方向を向き、俺は未だ小さく鼓動する胸を感じながら、まだやり残している仕事を思い出し歩いて行った。




















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