「男と女の友情ってあると思う?」 |
放課後、一緒に合奏したあとでそんなことを火原は聞いてきた。 森の広場のベンチで火原の隣に座っていた香穂子は目を丸くしている。 「男と女の友情ですか?」 「うん、そう!香穂ちゃんはあると思う?」 何故いきなりそんなことを聞いてきたのかわからないが香穂子は首を傾げながらうーんと考える。 その横で火原はジィッと香穂子の事を見ていた。 「あると思いますよ、私は。」 「香穂ちゃんはそっち意見か‥‥‥。」 「いきなりどうしたんです?」 「今日ねクラスのみんなで話題になったんだ。」 誰が言いだしたのか覚えてないが休憩時間中、話に華が咲いた。 それぞれの意見はバラバラで香穂子と同じ意見の人もいればそうでない人もいる。 結局はまとまらず授業開始のチャイムが鳴ってしまいそれからはもう話題として出ることは無かった。 「今ふと思い出して香穂ちゃんはどっちかなぁと思って。」 突然でごめんね、と頭に手を置き誤る。 「で、火原先輩はどっちの意見なんです?」 「おれ?おれはね香穂ちゃんと同じ意見なんだよ。」 「そうなんですか?」 「だってね誰とでも仲良くなったらそれは友達でしょ。男も女も関係ないと思うんだ。」 そうだと思わない、と火原に聞かれ香穂子はそうですねと答える。 その香穂子の返事に火原は嬉しそうに笑った。 「でもね‥‥おれ、香穂ちゃんとはそうじゃない方が良いなって思ってたり‥‥‥。」 あはは、と笑いながら顔は赤くなっていく。 逆に香穂子は火原の言葉を聞いてさっきまで笑っていたのに徐々に顏からは笑顔が消えていった。 その事に気付いた火原はどうしたのと声をかけ、顔を覗き込んだ。 「火原先輩は私とは仲良くしてくれないんですか?」 「えっ、何で?」 「だってさっき先輩がそう言ったじゃないですか。」 「あ、あれは!違うよ、違うんだよ香穂ちゃん!!!」 悲しそうな目で見てくる香穂子の前で火原は慌てた。 違うんだよ、誤解だよと大きな声で弁解をする。 つまりはこうだ。 火原は香穂子とは友達として仲良くしていきたいのではなくいずれかは恋人として仲良くしたいという意味で言った。 だが香穂子は違う意味で捉えた。 仲良くしたくない、という意味で言ったのだと思った香穂子は思ったのだ。 「おれ香穂ちゃんとはもっと仲良くしたいって思ってるよ。」 「本当ですか?」 「本当だよ!」 相当慌てた為か火原はハァハァと息を切らしながらつい立ち上がってしまったのを座り直した。 香穂子はというと良かったと小さな声と同時に顔に笑顔が戻る。 その顔を見て火原も良かったと胸を撫で下ろした。 「私も火原先輩とは仲良くしていきたいです。」 「おれも香穂ちゃんとは仲良しさんでいたいよ。」 「はい、だからずっと友達でいてくださいね先輩!」 ニコニコと満面の笑みの香穂子に火原はうんと頷く以外何も言えなかった。 「あ、もうこんな時間。」 もう下校時刻は過ぎており香穂子は天羽と一緒に帰る約束があるらしい。 ヴァイオリンケースとカバンを手に香穂子は立ち上がって火原に向き合ってありがとうございますと一礼をした。 「また一緒に合奏して下さいね。」 「うん、気をつけて帰ってね。」 「はい!」 さようならと森の広場を駆けて行く香穂子の背中を見ながらバイバイと降っている手がやけに寂しい。 一人になったとたん火原からは大きな溜め息が出てきた。 「おれは香穂ちゃんにとってずっと友達のままなのかな‥‥‥?」 それはちょっと嫌だなと思う。 今のまま友達でもいいけれど‥‥どうせなら。 「誰よりも一番の関係におれはなりたいよ香穂ちゃん。」 声に出しても相手には届かない。 座っていた腰を上げ腕を空へと延ばしうーんと唸る。 片手にトランペットのケースとカバンを持ち既に香穂子が通った道を火原も歩いて行った。 |
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