乙女

□桜
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サッカー部が終わりあいつが待っている正門へと急いだ。
少しでも一緒にいる時間を長くしたい一心で一人俺を待っている姿を想像しながら走った。



























二人肩を並べながら学校から歩いて20分くらいのの家まで他愛のない話をしながら帰る。
とは言っても殆ど香穂子が喋るから俺は相槌を打つばかりだが。
香穂子は本当になんでも話してくれる。
今日あったことを嬉しかったのから腹がたったことまで全部。
頭の中で自分のクラスと香穂子のクラスを比較しながら俺のクラスはこうだったと話したりする。
そんな帰宅時間、いやどんな時でも思ってしまう。
同じクラスだったら良かったと考えてしまう。
今更どうすることも出来ないことだ。
でも同じクラスだったら今香穂と一緒に笑ったりすることが出来るだろう。
同じ授業を受け同じ話題で華がさく。
それが出来ないのが凄く悔しい。
同じ普通科、同じ校舎の中。
だけどお互いが廊下ですれ違ったりすることは滅多に無い。
近いようで遠い。
あいつの側にいるのは俺の筈なのに。
一日の中で一緒にいられる時間はどれくらいある?
もっと一緒にいたい。
同じ時を過ごしたいと思うのは俺だけだろうか。


「‥‥‥ねぇ、土浦君聞いてる?」


ボーッとしていたみたいだ。
香穂がジィッと俺の事を見ている。


「わりぃ、ボーッとしてた。」


心配そうに顔をあげている香穂の頭に俺は手を乗せポンポンと軽く叩いた。
すると香穂はムゥっと膨れっ面になり俺を睨んでくる。
まぁ恐くはない。
そんな香穂の姿に笑みを浮かべ帰るぞと促した。
少し先に行く俺の後を待ってとついてくる。
俺はその言葉通り香穂が自分の横に来るまで止まり二人並んでまた歩きだした。





そこの角を曲がれば香穂の家に着く。
つまりあと少しで香穂と別れなければならない。
頭の中でもう少しでも一緒にいれる方法を考えてしまう。
そんな時ふと思いだした一緒にいれる口実。


「なぁ、今日はちょっと遠回りしていかないか?」
「へ?」
「いや、遠回りって言っても直ぐそこだしちゃんと家までは送る。」


見せたいものがあると言えば香穂は笑って良いよと言ってくれた。


「変なモノだったら怒るから。」
「大丈夫だ、安心しろ。」


むしろこいつは喜ぶと思う。
本来ならば曲がるはずの帰り道を俺たちは真直ぐに歩いて行った。





「わぁ、凄い。」


香穂はそのまま後ろへ倒れるんじゃないかというくらい上を見上げていた。


「来てみて良かっただろ、こんな立派なもんはなかなか無いぜ。」
「うん、こんな大きな桜の木初めて見たよ、本当に凄い。」


住宅街から離れたところにある広い敷地。
その中にポツンと一つ立っているのが今俺たちが見ている桜の木だ。
いつからこの場所に生えていたのかはわからない。
俺が小さかった時には既にあった記憶はある。
2日前くらいにたまたまこの桜の近くを通った時に目に入った。
その時はまだ八分咲きくらいだったように思う。
満開になったら香穂に見せたいとその時俺は思った。
ここ最近は天気も良くきっと満開だろうとさっき思いだし連れてきた。
案の定驚く程の素晴らしい満開の桜。
想像以上の桜に俺も吃驚している。
俺の横でさっきから綺麗としか言わない香穂。
それを見て俺は勝手に顔が嬉しそうに緩む。
香穂と一緒に俺も目の前の桜に酔い痴れるか。





ひらり、ひらりと舞い落ちる桜の花びらの中。
ゆっくりと流れる時間に心地よさを覚える。
ついさっきまで胸の中で支えていた思いも自然と消えていた。
いや、消えたのは違う。
小さくなった。
今は俺の欲望なんかより桜の中で綺麗に笑うお前を見ていたい。
いつでも、いつまでも見ていたい‥‥‥そう思う。




















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