乙女

□桜、舞う
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夢のような出来事から元の世界、現代に帰ってきてから初めての春が訪れた。
暖かい日ざしに様々な場所では桜が見事に美しく淡い桃色の花びらを開花させている。
穏やかな休日、譲と望美は二人で桜を見にきていた。


「見事に満開ですね、先輩。」
「うん、すごく綺麗。」


二人して桜の木を見上げる。
優しく吹く風に木々が揺れヒラヒラと花びらが落ちてくる。
その光景をしばらく眺めていたあと譲の横でクスクスと笑う望美の姿があった。


「どうしたんですか?」
「え、思い出してたんだよ。」


皆で桜を見に行ったよね、と懐かしみどこか淋しそうな声。
譲には言わなくても誰のことを言っているのか、望美がどんな気持ちで言ったのかもわかった。


「たまにね、あれは夢だったんじゃないかって思っちゃうんだ。」


何も言い返せないままちらりと望美の方をみると目の端に涙が溜まっているのが見えた。
スッと伸びてきた手にビクッと驚く望美に構わず譲は自分の指の腹でそれを掬う。


「でも兄さんはこの世界にはいない。」
「‥‥‥うん。」


小さく頷く望美。
それを見て譲ははにかむように笑った。


「それに俺はあの世界のことを夢にはしたくない。」


その言葉は恥ずかしいのか小さな声だったが望美にはちゃんと聞こえていたようで、同意をするように頭が上下に動いた。


「そうだね、あっちで大事な事を気付かせてくれたもの。」


その言葉にドキッと譲の胸が鳴った。
そして自然と、どちらからというものでもなく本当に自然に二人の手が重なる。
大事な事。
それはきっとこの世界では気付くのが出来なかったか遅くなっていた事。
目が合うと同時に微笑む。
それだけの事が今はとても幸せな気持ちにした。


「今頃あっちの桜も満開でしょうか?」
「きっとこっちの桜に負けないくらい満開だよ。」


だって私たちが救った世界の桜だよ、とにっこりと満面の笑み。
望美の言葉に譲はそうですねと返事をした。
空を見上げれば青と桃色のコントラストが鮮明に目に焼きつく。
そして一緒に旅をした仲間達の事を思い出した。


「色々な事があったけれど、時には命の危機を感じたけれど‥‥‥俺はあっちの世界に行って良かったと、皆と出会えて良かったと思います。」


望美を握っている手に力が込められる。
それに答えるように逆の手もギュッと握り返した。


「私もあっちに行って、皆と出会えて良かった。」


再び優しく吹いた風に乗って桜の花びらが空を舞う。
その景色を眺めながら二人は暫くの間、懐かしきもう行くことのない時代の事を思い出していた。
































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