戦国

□太陽の花
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昨日のことだ。
いつも、毎度の如く仕事をしている俺のところへ一人の訪問者がいた。
幸村だ。
その幸村から、明日は私と共に出かけませぬか、という誘いの言葉。
そんな笑みを浮かべるお前の誘いを断る奴がいるものなら是非拝んでみたいものだ、などと心の中で思いながら俺は有無言わず承諾の返事をする。
よかった、とこれまた眩しいくらいの笑みを浮かべ幸村は部屋をあとにした。
戸が閉まるのを確認して俺の手には小さく握りこぶしを作る。
幸村と出かけるなど久しくしていない。
どこへ行くのかわからないが、考えただけで顔は喜びで満ちていた。



























結構歩いたな、と数歩前を歩く幸村の背を追いながら空を見上げた。
あと数刻したらこれでもかと照りつける太陽は真上に昇る。
額からは汗が徐々に落ちてきていた。
出来れば足を休ませたい。
いつ目的地へ着くのだろうか。
そのことを幸村に問うために速度を早め横に並んだ。
そんな俺の考えを察したのか幸村は、もう直ぐで着きます、と笑いながら答えた。
そんな顔を見たら文句の一つ言おうなど誰が出来ようか。
顔に熱が溜まっていくのを感じながら、そうか、と小さく返事をした。





ただ黙々と幸村の後を追う。
緩やかな坂道が足に堪える。
顔を上げ前を見れば道の先が切れていた。
もうすぐ丘の一番高いところへ着こうとしている。
ならば下はどうだろうと顔を向けようか迷ったが…見ない方が良いような気がしやめた。
そんなことをしていたら、ぴたりと前にいる幸村の動きが止まった。
俺のいる後ろを振り返りながら、三成殿見てください、とまだ見えぬ先を指差しながら大きな声を出し笑っている。
なぜか眩しく感じた俺は額に手をあて、目の上に影を作り幸村を見つめた。
歩く速度を早め、徐々に距離は縮まる。
俺の視界には丘の上の他に丘の反対側が見え始める。
あれは何だ、と疑問に思いながら幸村と並んだとき、それはわかった。
辺り一面を黄色で埋め尽くされている大地。
向日葵の花が空に向かってこれでもかというくらいに咲いていた。
呆気に取られている俺の横で、してやったりと幸村は言いたげな顔をしている。
軽く怪訝そうな顔をしてやると怯むどころか、良い気分転換になりましたか、と笑顔で返された。
部屋に籠もっていると体に障りますから、と幸村の優しさが耳に届く。
心配をしてくれて嬉しい反面、迷惑をかけたかもしれないと申し訳なく思い、少し複雑になる。
難しい顔をしていたのかもしれない。
幸村が俺を覗きながら、迷惑でしたか、と聞いてきた。
そんなことはない、お前からの誘いを受けただけでどれほど嬉しかったことか。
などと口にはしないものの、首を横に振り否定だけはしておく。
何か言わねば、とごもごも口は動くのだが言葉は一向に出てくる気配はなかった。





しばらく無言の状態が続いたが、幸村が笑顔でそれを破る。
向日葵は三成殿に似てますね、と驚くことを言い出した。
眉間に皺を寄せ不思議に思う俺を余所に、真っすぐに生きている三成殿みたいです、となんとも恥ずかしい事を言う。
居たたまれなくなった俺はふいっと顔を背けた後、俺に似ているらしい向日葵畑に目を向けた。
鮮やかに咲いている無数の花に眩暈をおこす。
そこで、あぁそうか、と気付く。
何が俺に似ている、だ。
天に、太陽に向かって燦燦と咲く向日葵は幸村の笑顔に似ている。
眩しい黄色い花が似ているのだ。
一人納得をしている俺に不思議そうな顔を幸村はしていた。
何でもない、というように首を横に振り、空を仰ぐ。
幸村も釣られて空を仰いだ。
清々しい気持ちになり、ありがとう、と言いたくなった。
なった所で色々な意味を込め、聞こえるか聞こえないかの声で呟いてみる。
少し間が空き、こちらこそありがとうございます、と返ってきた。
どうして幸村が礼なんかを言うんだ、と笑った。
どうしてでしょう、と幸村も笑うものだから、仕方のない奴だ、と再び二人で笑う。






暑く照らす太陽の下、ゆっくりと目を瞑る。
目蓋の裏には鮮やかな黄色と眩い笑顔が浮かんだ。
出来るなら、俺の側でずっと輝いていて欲しい、と願いを込める。





前髪を掻き分けた風は向日葵をざわざわと揺らして流れていった。




















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