戦国

□桜吹雪
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暖かい日ざしが差し込む縁側。
足を外へ放り投げるように座る俺。
隣には丁寧に正座をしている幸村がいた。
二人の袂には湯呑みと、皿に盛られ串に刺さった三色に並んだ団子。
それらには一口も手を出さず、二人して目の前にある薄桃色をした花を所狭しと着飾った桜を眺めていた。



























時としてどれくらいの時間をそうしていただろうか。
長い間、そうしていたような錯覚に陥る。
実際は湯呑みから湯気がまだ出ているのを確認出来るのだから、然程経ってないのだが。
じれったい時間。
何か会話でもすればいいのに頭の中は空っぽで、気の利いた言葉など浮かんでこない。
こんな自分に腹を立てながらため息を一つ吐いた。


「どうかなさいましたか?」


隣から聞こえた優しい声が俺の心の臓の奥深いところに堕ちていった。
いきなり声を掛けられたからなのか、その声にやられたからなのか。
わからないが確かに俺の胸は激しく脈を打ち始めた。
相当やられている、と感じ俺はどうしたものかと、何か幸村を楽しませる言葉を探した。
…探したところで見つかる訳もないのだが。





その時だった。
突然強い風が俺たちを襲う。
同時にザァッという音がし、それによって目を強く瞑った。
直ぐに風は納まり、一瞬の出来事だったそれからゆっくりと目蓋を開ける。
すると目の前には見事な光景が広がっていた。
ひらひらと数え切れぬ桜の花びらが舞っていたのだ。
右へ左へ、小さな花はひらりひらりと空から降ってくる。
小さな風に乗り、自分の所にもいくつか舞い込んでくる。
手を出せばそこに降り立ってくれるのではないか、と自然と俺の手は前へと出ていた。
すれば一つの花びらがふわりと掌に舞い降りてきたのだった。
あまりにも綺麗で神秘的な光景にほぅっと言うようなため息しか出なかった俺だが、それは幸村も同じみたいで、小さな感嘆のため息を耳にした。
ちらりと幸村に目をやれば、また俺と同じように手を前にかざし桜の花びらを掌に乗せんとしていた。
ただ俺とは違い、なかなか手には乗ってくれず、それならばと乗せる事に一生懸命なり花びらが降りそうな所へ手を伸ばしているようだった。
なんとも可笑しく、なんとも愛しく思う瞬間だった。
幸村の為に手に早く花びらが落ちればいい、という思いとは逆に、一生懸命に花びらを追う幸村を見ていたい、という思いが入り交じる。
そんな俺の思いなど知らない幸村は小さな掛け声を出しながら追い掛けていた。


「三成殿のようにはいかないものですね。」


諦めたのかどうかわからないがそう言いながら幸村の手は収められた。
少し残念そうな顔をして俺の方に顔を向ける。


「そんなに花びらが欲しいのか?」
「そういうわけではないのですが…」


はにかむ幸村に小さな胸の痛みを覚えた。
俺の手にはまだ薄桃の花びら。
潰れないように握り締めた。


「幸村、手を出せ。」
「え、こうですか?」


俺の言葉どおり利き手を前に出す幸村だが、違う、と俺は空いていた手で幸村の逆の手を掴む。
それを前に持ち上げ、お椀を作るような形にした。
不思議そうな顔をする幸村を余所に、椀の少し離れた所の上にくるように手を上げる。
ゆっくりと閉じていた指を開き、中にいた一枚の花びらはヒラヒラと俺から離れていった。
その様を目を外すことなく見つめる二人。
ひらり、ひらりと落ちていくそれは吸い込まれるように幸村の掌に辿り着いた。


「三成殿…。」


俺の顔と自分の手を交互に見つめながら、幸村は俺の名を呼んだ。
俺はなんと言葉をすればいいかわからず、少し笑えてきた。
それが幸村に伝わったのか、定かではないが、あいつも笑ってくれた。
綺麗ですね、と幸村は慈しむような声色でそっと手の中の花びらを包み込む。
あぁ、と俺は短く返事をした。
そして再びさくらの木を見上げる。
先ほど迄とはいかないが、小さな風にのってまだ桜は花びらを泳がせていた。




















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