戦国

□雪
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「寒いな‥‥‥。」


静かな午後、部屋には俺が一人。
いつもの如く責務を全うするが為、筆を片手に机に向かっていた。
意識はそれに集中していたにも係わらず、ふと体が身震いをし気付いた寒さ。
今は冬だから寒いのは当たり前なのだが、いつもよりも鋭い寒さを身に感じる。
背後に冷たい風を受け見回せば、少しだけだが戸が開いていた。
ここから吹いてきたのか、と重い腰を上げ隙間へ近づく。
閉めようと手を掛けると、そこから覗く違和感。
すっ、と戸を開ける。
体全体で外気の冷たさを感じ、同時に目に入ってきた光景に納得をした。


「雪、か。」


白い小さな固まりがゆっくりと空から降っていたのだ。
道理で寒いはずだ、と空を見上げ、辺りを見回す。
草木には薄らと積もっており、このまま降り続けるのなら明日はかなりの量が蓄積されていることになるだろう、と暫らく眺めた。



























足が勝手に動いていた。
未だに降っている雪を潜り抜けながら確実に近づいている。
体が寒さで冷えていくのを感じながらたどり着いた場所。
目の前のいつもより大きく感じる戸に手を掛け、これまたいつもより重く感じる戸を押し開けた。
ぎぃ、と音を立てながら開いていく。
中からは外とは違う空気が流れてきて、静かな外とは比べものにならない大きな音が耳に入ってきた。
たぁっ、と勇ましいながら透き通る声が聞こえる。
同時にヒュッと槍を振り下ろす音。
このような季節にも関わらず目の前では額から汗を流している幸村の姿があった。
まだ俺の存在に気付いていない幸村は鍛練に集中をしている。
一つ一つ振り下ろされる槍がしなやかに撓っていた。
戸を閉めないまま、俺はそれに見惚れ時間を忘れる。
我を忘れ、見入っていた。


「三成殿ではありませんか?」


音が消え、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
それで現実へと戻された俺は、はっと顔を向ける。
槍を振るっていた手を止め真直ぐに俺を見る幸村の顔がそこにはあった。


「三成殿?」


もう一度、不思議そうに俺の名を呼んだ。
固まって動けなかった俺はそれを合図かのように受け取り、一歩、一歩と足を動かす。
いや、動かしたのではない。
動いていた。
ただ近づいてくるだけの俺をこれまた不思議そうに幸村は見る。
俺は目の前で歩みを止め、少し赤みを帯びている頬に触れた。
冷えていた指先で触ったせいか、そこは焼けるように熱い。
だが何故かわからないが、妙に安心をした。


「幸村、もっと近くでお前を確かめたい。」
「えっ?み、三成殿?」


有無を言わさずに俺は頬を触れていた手で頭を引き寄せ、逆の手で幸村の体を引き寄せた。
背に腕を回し力を込める。
腕の中の幸村は、どうしていいのかわからない、という感じだったのだろう。
恐る恐る、幸村は俺の背に自分の腕を回し掌だけが触れていた。
きゅ、とそれに力が込められる。
幸村の肩に自分の顔を埋め、甘えるように擦り付けてみた。
前からは幸村の体の体温、背には手の体温。
酷く安心をし、泣きたくなった。


「不安‥‥‥だったのかもしれない。」


震える声がばれないようにゆっくり声を出した。
雪の降る静かな世界に一人取り残されたような、そんな気になっていたのかもしれない。
ただ会いたくなって、幸村に無性に会いたかったのだ。
幸村の頬と俺のとが寄り添うように触れる。
背にある腕に力が込められ、息苦しくなるくらい体を近付ける。


「私は三成殿の側にいます。」


ずっと、と耳元で優しく、まるで子供をあやすかのような声がした。
その言葉が俺の中で浸透し、一つの涙が筋を作る。





外では雪が静かに降り続いていた。




















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