戦国

□雨ふる日
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ことん、と握っていた筆を机に置く。
一つ溜息を吐いて、終わったな、と言葉を洩らした。
ふと、空気の冷たさに気付き立ち上がり、襖を開る。
広がる庭へ目をやれば、しとしとと雨が降っていた。



























「何をお考えでいますか。」


縁側で壁に背を預け空を眺めていた時横に人の気配が出来、声がした。
こんにちわ三成殿、と顔を向ければ幸村で、にこっと顔には笑顔を浮かべている。
あぁ、と返事を三成が返す中、幸村は隣へ腰を降ろしていた。


「それで、何をお考えですか?」
「雨が降っているから見ていただけだ。」


三成の言葉で幸村も空に顔を向ける。
どんよりとしている空からは幾つもの水滴が落ちていて、止む気配は見えない。
そんな空を二人は一緒に眺めていた。
ふと、視線に気付き三成は幸村に顔を向ける。
瞬時に目線が合った。
どうした、と問えば、いいえ、と頭を幸村は振る。
そうか、と三成は視線を戻し、幸村も庭へと戻した。
小さく、淋しそうだ、と声がしたような気がしたが、雨の音で掻き消される。
それから、また二人は暫し雨を眺めた。


「雨は‥‥‥お嫌いですか?」
「何でだ?」
「いえ、なんとなく。」


目を伏せながら、幸村は軽く頭を振った。
なんとも言えない雰囲気になり、二人とも口を瞑る。
しばらくその空気が流れた。


「あまり、好きではないな。」


先に口を開いたのは三成で、小さな溜息とこれまた小さな声がした。
空を見ていた幸村はゆっくりと三成を向き、また空へと顔を戻す。


「わからなくは無い、です。」


三成がどういった理由で嫌いなのかはわからないが、わからなくは無いと幸村は言った。
現に雨が嫌いだという人間は多数いることだろう。
はにかみながら答えた。
そして、私は嫌いではありません、と幸村は続ける。
空を見ていた三成は幸村へと顔を向け、何故だという視線を送った。
それに幸村は柔らかな笑顔を返す。


「雨を見ていると何もかも、嫌な事まで流してくれるような気になります。」


実際は流れませんが、とはみかみながら言えば三成は苦笑いを作った。


「それに雨の後のあの空気がとても好きなのです。」
「空気?」
「はい。」


とても澄んでいてこれこそ気持ちが晴れるようです、と言いながら幸村は腰を上げた。
縁側の淵まで移動し軒から腕を伸ばす。
ぽつぽつ、と手の上に雨が降り、それがまた幸村の手から地面へと落ちていった。


「それに、嫌いな物より好きな物が多い方が毎日楽しく過ごせますし。」
「‥‥‥俺には到底考え付かない事だな。」


腰をあげ、ゆっくりと幸村の横に並び耳を傾けた。
雨の降る音がポツポツと聞こえてくる。


「俺は、雨を好きになれだろうか。」
「なれます、三成殿なら。」


そうだといいが、と思いながら幸村にゆっくりと向けばにっこりと、溶けてしまいそうに微笑んでいた。





お前が隣にずっといるならば、好きになれるかもしれない。





降り続く音を耳に入れ、頭の中で幸村の優しい声を反芻させ、そんなことを思いながら三成は空を見上げる。
視界の隅では雲と雲の隙間を明るく、太陽の光が射していた。




















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