自室にて--- 天気が良く、暖かな日差しを浴びながら俺は仕事に追われる。 少し開けた窓から心地よい風が入り、俺の手は止まった。 立ち上がり、窓を全て開ける。 爽やかな空気が部屋に満ちていき、俺の気分を落ち着かせた。 そういえば、とそこで思い出す。 最近、顔を見ていないな。 最近と言ってもここ二、三日なのだが。 それでももっと長い間、会っていないような感覚に陥る。 そう思うと会いたくなるのが心情。 ちらりと後ろで控えている仕事に目を向け、ふむ、と納得をする。 急ぎのものはない、今手に付けているのを片付けたら会いに行ってみよう、そう考えた。 だが‥‥‥理由がただ会いたいからなどと俺が言える訳もなく、何かないかと頭を巡らせる。 部屋を見回し、ふと目に入ってきた一冊の書物。 そういえば読みたいとか言つていたな、とそれを手に取り再び、ふむ、と納得をした。 これを貸しに行くか。 そして机の上へ目の付くように置いた。 忘れることは無いだろうが‥‥‥念の為という事だ。 再び机に向かい、お前は今頃何をしているだろうか、と考える。 鍛練でもしているだろうか。 それとも兼続等と話をしているかもしれない。 あぁ、お前のことだ、城下へ降りたかもしれん。 考えて、その姿を想い描き小さく俺は笑う。 俺がこんな事を考えているなんてお前は微塵にも思わないだろう。 俺自身、このようにお前ばかり考えるなんて‥‥‥思ってもみなかった。 あぁ、早く終わらせお前に会いに行こう、幸村。 筆を手に取り、窓の外を見る。 あまりの眩しさに目を細めた。 お前の笑った顔を思い出しながら、俺は仕事を再開した。 鍛練場にて--- ありがとうございました、と互いに礼をする。 額から流れて出た汗が床へと落ちた。 手拭いを手に取り体に纏わり付くそれらを拭く。 他の兵達から、さすがです、など先程の感想を述べられ言葉を返しながら私は鍛練場を後にした。 日差しが自棄に眩しく感じ、目を覆うように手を額に当て空を見上げる。 なんという良い天気だろう、と清々しい気持ちにさせた。 このような良い日は遠乗りに出たらさぞ気持ちの良いことだろう。 そこで私はとある人の事を考えた。 今頃、きっと仕事に囲まれ忙しそうにしているだろう。 その姿を頭の中で描きクスっと笑った。 最近はその所為なのかか会話、いや会うという事すらしていない。 貴方は真面目な方だから、一つのことをやり始めると最後までしてしまうのでしょう。 それが貴方の良い所であり、不器用な所。 少しは息抜きをしても誰も咎めたりはしないのに。 でもそんな貴方だから私はずっとお側にいよう、と思える。 ただ‥‥‥心配はしてしまう訳で。 今もお疲れではないか、とか。 睡眠はちゃんと取ってるか、とか。 きっと貴方は不機嫌な顔になりながら、そんな心配はするな、と言われるのでしょう。 少しくらいはさせてほしい。 私から貴方へ出来る数少ない事だから。 そんな事ばかり考えたからだろう。 貴方に会わないと不安な気持ちになってきた。 あぁ、そうだ。 何か手土産を持って行こう。 そう思いつくと既に頭の中は様々な物が浮かび上がる。 やはり無難に食物とかだろうか。 ならば急いで城下へと降りなければ、と足を速めた。 疲れている時には甘いものが良いと言う。 貴方はあまり好んで口にしないが、貴方に少しでも喜んで貰える様、見目が良いものを選ぼう。 次第に歩く速度が上がる。 ありがとう、と少し照れながら笑う三成殿の顔を思い浮べながら、私は足を動かした。 回廊にて--- 俺は幸村の自室へ向かっていた。 俺が窓から見た時より日は傾いている。 思っていたよりも時間を使ってしまった、と悔いても仕方ない。 手には渡すつもりの本を抱えながら、どかどかと音を鳴らして足早に歩いた。 おねね様に見られたら怒られそうだと思いながらも、それほどまでに切羽詰まった自分が可笑しく笑える。 目の前の角を曲がれば俺とは反対方向へ歩いている見覚えのある姿を捕らえた。 見覚えある、というか会いにいこうとしていた人物、幸村がいた。 あっちも俺に気付いたのか名前を呼びながら近づいてくる。 気付かれないよう俺は足を速め、気付かれないよう胸を弾ませながら幸村の名を呼んだ。 手には買ったばかりの菓子を持ち、早く三成殿にお会いしたい一心で回廊を歩く。 外に目を向ければだいぶ日が傾いていて、早くお渡ししようと考えたら自然に足が早くなっていった。 徐々に近づく目的地に胸は高鳴っていく。 知らないうちに膨らんでいる自分の心に、少しばかり恥ずかしくなった。 真っすぐ回廊を行き、先にある曲がり角。 そこからこちらに向かってくる人影が見え、途端に私の顔は笑顔を作る。 三成殿、と名前を呼べばあちらも気付いていたらしぐ、軽く笑い返してくれた。 走って側まで行きたい、と思うのだがさすがにそれは止め、普段より早い歩みを更に速める。 短くなっていく二人の距離に、私の胸は更に高鳴っていった。 俺の手には幸村から貰った菓子がある。 私の手には三成殿からお借りした本がある。 いた場所、していたことは違えど俺達は同じ事を考えていたのだ。 そして私達は同じ想いで、同じ事をした。 お前に、幸村に会いたい。 貴方に、三成殿にお会いしたい。 なんとも単純で、なんとも滑稽な気持ちに笑いたくなる。 だけどきっとこの気持ちが大事な事で、とても愛しい事なのだと私達は感じた。 また近いうちに俺はお前に会いたくなるだろう。 きっとその時、私も同じ気持ちでしょう。 その時はまたこうやって、互いの事を考えながら。 会える時間を楽しみにしていれば、幸せなのだと。 俺と、私は思うのだった。 |
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