戦国

□この先にあるもの
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ありがとうございました、と威勢のある店員の声を背に受け、俺と幸村は店を後にした。



























おいしゅうございました、と先程まで滞在していた茶店の感想を満足気に述べる幸村。
手には兼続等に渡すのだと土産の団子を持っている。
俺にとってはただ甘ったるいだけなのだが、幸村にとっては旨いらしい。
よく甘いものが食えるな、とは思うものの否定をすれば幸村は悲しむだろう。
だからあまり言わないでおく。
俺は当分甘い食物はいらん。
だが本当に満足だったのか笑顔の幸村を見て、付き合うだけならいいか、という考えになる。
俺も甘いな、と鼻で笑った。
ガヤガヤと賑やかな城下を二人で歩きながら他愛のない話に華を咲かす。


「三成殿、あそこの大福はとてもおいしいのです。」


指で店を指しながら嬉しそうに幸村は俺に教えてくれた。
また甘いものかと俺は笑う。
次は違う店を指し、お薦め品を教えてくれる。
次から次へと出てくることに感心をした。
俺は用が無い限り城下になど下りない。
幸村は違うようでよく行くみたいだが。
たからこうして歩いているだけで町の住民が声を掛けている、幸村に。
老若男女、十人十色。
幸村は声を掛けてくれたそれぞれの人間に笑って対応している。
その中には、兼続様は一緒では、慶次様や左近様は、と聞く輩も。
幸村も、今日は一緒ではありません、と言葉を返している。
見ているだけの俺は‥‥‥実におもしろくない。


「幸村、行くぞ。」


未だ話をしている幸村に背を向け、先に一人で歩きだした。
直ぐ様、背に俺の名前を呼びながら走ってくる姿が見える。
そして横に並ぶように歩きだした。


「申し訳ありません、三成殿。」
「‥‥‥別に、怒ってなどいない。」
「ですが、町の者とだけ会話をし、三成殿が詰まらない思いをしたことは事実です。」


申し訳ございません、と再び幸村は頭を下げた。
その姿に居た堪れなくなり、同時に自分の大人気ない行動を恥じた。
それに俺は幸村が会話をしていたことに苛立ったのではない。


「兼続等とは‥‥‥よく来るのか?」


暫しの沈黙が二人の間を流れ、俺がそれを破る。
俺の質問で幸村の悲しそうな顔が瞬時に笑った。
そして、はい、と嬉しそうに返事をする。
その時の笑顔に少し苛立った。


「兼続殿だけではなく慶次殿や左近殿とも出かけます。」


そんなことは先の町人達との会話で知っている、と心の内で呟く。
だが自分で聞いておきながらこう思うのはおかしいとも思った。
そんな俺の内情を知らない幸村は、三成殿とも出かけたいのですが、と続けていた。


「俺は、いくらでも付き合ってやる。」


口に出すつもりはなかった。
心の中でそう思っただけだ。
たが何故か声として出ていき、幸村に聞かれた。
やばいな、と思い幸村を見たらやはりくすくすと笑っていた。


「何がおかしい。」
「いえ、ただ私が間違っていたのだなと思いまして。」


幸村には見透かされたようで、俺が苛ついていた理由がわかったらしい。
俺はただ、幸村が他の奴らと仲良さそうにしているのが‥‥‥気になっただけだ。


「三成殿、まだ時間はありますか?」


幸村から顔を反らすように俯いていた俺はその言葉に、大丈夫だと返事をした。
良かったと幸村は胸を撫で下ろし、にっこりと笑う。
その顔で俺の胸はどきりと鳴った。


「行きたい所があるのですが、一緒に行って貰ってもよろしいでしょうか?」
「構わん。それで、何処へ行こうというのだ?」
「それは‥‥‥内緒です。」


でも気に入ると思います、と幸村が言い、俺達は歩きだした。






幸村の行きたい場所という所は結構距離があり、かなりの時間を歩いた。
しかも今は緩やかではあるが坂道。
正直、俺の息はあがっている。
一歩前にいる幸村は鍛え方がちがうのだろう、そんなそぶりも見せず歩いていた。
時々俺の方を振り返り声を掛ける。
大丈夫ですか、もう直ぐですから、と俺のことを気にしてくれることがくすぐったかった。


「ここからこちらへと入ります。」


途中、道から逸れ草を掻き分けながら歩きだした。
道と呼ぶには程遠い道を幸村の後に続く。
こんな場所に何があるのだ、と疑問を感じ始めたその時、幸村の歩みは止まった。


「この場所は子供達に教えて貰いました。」


見渡しの良い場所に出てきた。
今まで邪魔だった木々や草花はそこだけ切り取られたかのように生えていない。
そして俺は目の前に広がるなんとも美しい景色に目を奪われていた。


「日没までに間に合って良かった。」
「これを‥‥‥見せたかったのか?」
「はい!私の一番好きな景色です。」


山々の間にゆっくりと日が沈みかけていき、周りは柔らかな赤に包まれる。
横に目をやれば、また幸村も赤に包まれていた。
ならば俺もなっているのだろうな、と思いながら再び夕日に視線を戻す。


「この場所を誰かに教えたのは三成殿が初めてです。」
「そう、か。」
「はい。他の方々には内緒にしてください。」


二人だけの秘密です、と幸村は微笑んだ。
俺はこの時、夕日に精一杯の感謝を贈っていた。
顔が自然と赤くなっているのを隠してくれているからだ。
それからまた二人で夕日を楽しんだ。





初めに来た時よりも大分日が傾いている。
周りには心地の良い静寂が流れていた。


「次は俺が取って置きの場所を探しておく。」


付いて来てくれるか、と俺が問えば、何処までも、と微笑みながら幸村は答えをくれた。


「その場所を教えるのはお前だけだ、幸村。」
「二人だけの秘密の場所、ですね。」


そして気の済むまで俺達は目の前の景色を眺めていた。












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