任務のため聖地から離れていた。 慣れない仕事ではあったがなんとか今日それを終わらせることができた。 まだ日が落ちる迄には時間もあるし聖地にいるみんなには先程明日には帰ると伝えてある。 ユーイはこの自由な時間を使って一人街を散策することにしたのだ。 |
様々な店が賑わう商店街。 見ているだけでユーイは楽しくなってキョロキョロと周りを見回しながら歩いていた。 ユーイにとっては今まで見たことのない街の雰囲気。 全てのモノが新鮮に見えた。 「あれ?どこかで‥‥‥。」 ユーイの目に入ってきたのは一人の赤い服を着た女性の姿だった。 色とりどりのアクセサリーが置いてあるワゴンの前で店のおじさんと話をしているその人をなぜかユーイは見たことがあるような気がしたのだ。 ユーイは立ち止まり頭の中でその人がどこの誰かを考えていた。 確かに見覚えのある姿、雰囲気なのに思い出せない。 唸りながら考えている中いきなり通信機が鳴りだした。 なんだろうと急いで通信機を開けてみるとそれはレイチェルからだった。 「もしもしユーイ大変なんだよ!」 「レイチェル一体どうしたんだ?」 「陛下がいなくなっちゃったんだよ!」 「なんだって!」 レイチェルが朝起きてアンジェリークの部屋に行ってみるとそこには誰も人の姿も見えなかった。 机の上にあるメモ帳に彼女の字で『ちょっと出てきます。』とメモがあるだけだったらしい。 「宮殿の中もセレスティアもいないみたいで。」 他の守護聖達も今いろいろな場所を探しているらしい。 「ユーイも今いる星をちょっと探してくれないかな。」 「勿論だ、この星はオレが探すよ。」 「あのね、多分陛下は赤い服を着てると思うから。」 赤い服なのか、とユーイが聞き返しながら頭の中に何かが過った。 そしてさっきまで見ていたワゴンの前にいる女性に目を配る。 「見つかったら連絡ちょうだいね!」 「連絡はするけど‥‥‥あれ陛下じゃないのか?」 「え!?陛下?」 ちょっと確認してくると言い通信機からはまだレイチェルの声が聞こえてくるもののユーイはそれを切った。 そしてその女性のところまで歩き出した。 「あ、これ可愛いですね。」 「お、そうだろ?お嬢ちゃんの瞳の色と同じで似合うと思うぜ!」 「あ、私のではないんです。」 「おや?プレゼントか何かかい?」 「はい!大事な人へ何か贈りたいと思って‥‥‥。」 キラキラと光る指輪やイヤリング、ネックレスを前に腕を組みながら悩んでいた。 一体どれくらいこのワゴンの前にいたのか。 一つ手に取っては相手を思い浮かべ選んでいた。 「うん、この色なんかレイチェルに似合うかも。」 「レイチェルへのプレゼントを買いに来たのか陛下?」 「きゃぁ!」 ユーイはアンジェリークの後ろに立ち声をかけた。 驚かせないようにしたつもりなのだがつもりだっただけらしくすぐにごめんと誤る。 アンジェリークはゆっくりと声のした方へ首を回しその姿に驚いていた。 「なぜユーイがここにいるのです?」 「それはオレの台詞だ。」 「私はちょっと用事があって‥‥‥。」 「お供もなしでレイチェルにも内緒にしてか?」 それは、とアンジェリークは小さな声になる。 そんなアンジェリークを見てユーイはため息をついた。 「レイチェルや他の守護聖がまだ陛下のことを探してる。」 「はい。皆には迷惑をおかけしました。」 「で、レイチェルへのプレゼントは決まったのか陛下?」 アンジェリークの後ろへ立っていたのを横に移動した。 ユーイはさっきまでアンジェリークが見ていたアクセサリーを手に取り店の人にこれいくらなどと聞いていた。 アンジェリークはその行動に驚きを隠せないでいた。 「‥‥‥怒らないのですか?」 「う〜ん、確かにみんなに迷惑をかけたのはいけないことだけどそれは理由があってのことだろ。だったらオレは怒らない。」 「でも私は!」 「レイチェルの喜ぶ顔が見たいんだろ?」 「え?」 「陛下はレイチェルに渡すプレゼントを買いにこっそり来たんだろ?」 その言葉にアンジェリークは小さく頷いた。 「本当に直ぐに戻るつもりだったのです。だけど気がついたら何時間も迷ってしまって‥‥‥。」 そしてアンジェリークはいくつものある中のアクセサリーからひとつの指輪を手に取り店の人に渡した。 「これにするのか?」 「えぇ、実はユーイが来る少し前にこれにしようって決めてたんです。」 これがレイチェルに似合う色だからと店の人に渡した指輪は丁寧に小さな箱へと収まれていく。 その店の人にお金を渡し、ありがとうと綺麗に包装された小さな紙袋を受け取った。 カサリと紙袋を開けるとピンクのリボンが巻かれている小さな箱が入っている。 それを見てアンジェリークはにっこりと笑った。 ユーイもアンジェリークの笑顔につられ笑っていた。 アンジェリークがユーイにここで待つように言われたのは10分くらい前。 皆が心配しているだろうからと聖地へと急いで帰る途中に突然ユーイが足を止めそう言ったのだ。 アンジェリークはいきなりのことで何が何だか理解出来ないまま逆方向へ段々と小さくなっていくユーイの背中を見ているしか出来なかった。 行き交う人々を見ながらアンジェリークは建物の壁に背を凭れながらユーイが戻ってくるのを待っていた。 そして10分後ユーイが走りながら戻ってきたのだった。 息を切らしながら項垂れるユーイの手には今アンジェリークが持っている紙袋をと同じものが握られている。 それをユーイはアンジェリークにグイッと突き出した。 「これ陛下にあげるよ。」 フゥッと一息つき下を向いていた頭を上げ目を丸くしているアンジェリークを見た。 そして無邪気な顔で笑った。 「後ろから見ていただけだから本当はどうだか分からないけど、陛下も欲しいのかなと思ったんだ。」 店のおじさんもそう言っていたし、とユーイはケラケラと笑った。 「陛下の為に買ったんだ。受け取ってくれないとこいつ可哀想だろ。」 「ユーイ、ありがとう。」 ユーイの手からアンジェリークの手へと袋は移動した。 開けても良いかと聞けばユーイは頷く。 アンジェリークはゆっくりと袋から小さな箱を取り出し中から先程大切な親友の為に買った指輪と同じ形の、だけど色違いのモノが出てきた。 嬉しくてアンジェリークは何回もユーイにありがとうと言った。 どういたしまして、と嬉しそうなアンジェリークの顔を見ながらユーイも笑う。 「‥‥‥陛下はそうやって笑っていた方がオレ好きだな。」 「今、何か言いましたか?」 「オ、オレは何も‥‥‥。」 ドキマギしながらユーイはアンジェリークの言葉を否定した。 アンジェリークには聞こえなかったみたいでユーイは内心ホッとした。 別に聞こえても良かったのだが陛下に失礼かとも思ったしなによりユーイが少し恥ずかしかったからだ。 小さくポロリと出てきた言葉はユーイの心の中で思っていたこと。 いつもと違う服装で見たこともないアンジェリークの笑った顔。 その笑った顔を見るたびに胸がドキドキし、顔が熱くなる。 こんなことは初めてで、どうしてこうなるのか、これがなんなのかはユーイには分からなかった。 「顔が赤いみたいですけど大丈夫ですか?」 フッと目の前に影が出来たと思えばアンジェリークの顔があった。 頭の中でアンジェリークのことを考えていたユーイは更に顔を赤くする。 アンジェリークはというと体調が悪いのかと心配をしていた。 慌てて大丈夫だとユーイが言えば信じてくれたのかホッと胸をなで下ろすアンジェリーク。 その姿にユーイも胸をなで下ろした。 「では帰りましょうかユーイ。」 「帰ったらレイチェル怒ってるかもな。」 「フフ、怒ってるでしょうね。」 「陛下、笑い事じゃないだろ。」 「怒られた時はユーイ助けてくださね。」 「陛下こそ助けてくれよ。」 そう言いながら二人は一緒に笑いだし聖地へと帰って行ったのだった。 聖地へ帰ると予想通り、レイチェルに二人は怒られた。 でもアンジェリークが買った指輪を渡すと本当に嬉しそうに喜んでいた。 そのレイチェルの笑顔にアンジェリークは大満足だった。 ユーイは結局はあの時の感情がなんなのか分からないままでいる。 今度エルンストにでも聞いてみようかと思いながらアンジェリークの指に填められた指輪を見ていた。 |