戦国

□鳴かぬ鳥
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ぽかぽかと日の当たる縁側。
木々は新芽を付け青々と輝いている。
一際、鮮やかな赤い花は躑躅。
もう直ぐ夏がくる、そう幸村は庭を眺めながら思った。



























「何を考えておる、幸村?」


背後から聞き慣れた足音と共にこれまた聞き慣れた声。
ゆっくりと幸村の隣へ腰掛けるのを待ち問い掛けに言葉を返した。


「もう夏も近いのかと考えておりました、政宗殿。」
「確かに、前よりは日差しが暑く感じるな。」


えぇ、と返事をし二人で庭に目をやる。
穏やかな時間。
遠いどこからか鳥の泣き声が聞こえ幸村は自然と顔が微笑んだ。


「暑い、暑い言うてもやはりまだ春じゃ。」


少しぼぅとしていたせいかその言葉で我に返った幸村は不思議そうな顔で政宗を見た。
前に会った時より大人びた横顔が目に入る。
その横顔がいきなり振り向き、目が合い、幸村の心臓が飛び跳ねた。



「あそこに鳥がおる。」



目線だけで政宗はその鳥の場所を差す。
幸村はその方向へゆっくりと目を向けた。


「鶯、ですね。」
「静かにするのだ、幸村。」


鳥が鳴けぬ、と小声になっている政宗に少し幸村は笑えた。
はい、と幸村も小声で返事をし、一緒になって鳴き声を待ち望んだ。





静かな時が流れた。
美しい緑色の羽をした鶯を優しく見つめながら。
だが鶯は歌声を披露することはなく二人の前から飛び立っていく。
ばさばさと羽を広げどこか別の場所へ行ってしまった。


「行ってしまいましたね。」
「ふん、せめて一鳴きしていけばよいものを。」


二人で飛び立った方を見ながら残念な気持ちになる。
政宗はこうは言うものの残念に思っているのを知っている幸村は微笑んだ。


「きっと見つめ過ぎてしまったのでしょう。」
「幸村に見つめて貰えるのだ、此れ程、幸福なことはなかろう。」
「それならば、政宗殿の視線を受けて恥ずかしくなり家へと帰っていったのでしょう。」


政宗の言葉に少し顔を赤らめた幸村はそう返した。
家か、と政宗は幸村の言葉に小さく反応する。
そんな政宗にどうかしたのだろうか、と幸村は不思議に思った。


「どうかなさったのですか?」
「‥‥‥お前もいつか上田へ帰るのだ、と考えておった。」



顎に手を付きながら立ち上がり庭へと出る。
あぁ、そういうことか。
幸村には政宗の考えていることがわかったのか、くすくすと笑いだす。
その笑い声が政宗の耳に届き、何が可笑しいのだ、と不機嫌そうに聞かれた。


「いえ、夏になったこの庭もさぞ美しいのでしょう。」
「儂、自慢の庭じゃ。美しいに決まっとる。」
「えぇ、是非拝見したいものです。」


よろしいですか、そう言う幸村に政宗は当たり前じゃ、と笑った。
その顔に見初れたかのように顔を赤くし、幸村も嬉しそうに笑い返した。












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