戦国

□日の当たる中
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「左近、幸村を見なかったか?」


廊下を歩く俺を殿が呼び止めた。
また幸村絡みか、と気付かれないよう溜息を吐き出し殿の方へ振り返り見ていないことを告げた。


「どうかなさったんですか?」
「あぁ、幸村が先日、団子を持ってきたのだ。」


話を聞くとその幸村が持ってきた団子を秀吉殿が気に入ったらしくそれを買ってきてほしい、とのことだ。
だがその団子の店を聞いていないため買いに行けず、幸村に聞こう、そしてあわよくば一緒に出かけようと殿は思っているだろう。
幸村を見かけたら伝えてくれ、と一言言った殿は踵を返し俺から去っていった。
幸村ねぇ、と俺は背中を見送る。
そして頭の中では勝手に探し人の居そうな場所を思い浮かべ歩みを進めた。



























「こんなところに居なさった。」


日当たりの良い縁側。
そこで殿が探していた幸村がいた。
壁に背を預け目を瞑り眠っている。
近づいても起きる気配なし。
一端の武士が人が近づいても起きないのは問題あるんじゃ、と思うものの安心している証拠では、とそう考えることにした。
それにしても本当に気持ち良さそうに眠っている。
俺は幸村のちょい斜め前になるような場所へ腰を降ろした。
普段は冷静な大人びた感じを受けるのに、こうして見たらやはり年相応に見えるから不思議だ。
武田にいた頃よりも幸村は成長しているのだが、なんだか成長していないようにも思えて仕方がない。
ゆっくり手を幸村へと伸ばし顔に掛かっている髪の毛を梳いてやる。
くすぐったかったのか小さな唸り声をあげ身動いだ。
その姿を見た俺は小さく笑う。
相変わらず、可愛い方だ。
にしてもこんな場所にいて誰も気付かなかったのだろうか?
それとも気付いていながら起こさなかったのか。
おそらくは後者だろう、と考えた俺は心の中に黒い物が生まれた。
確かにこんなに気持ち良さそうにしていたら起こせないよな。
その気持ちはわかる。
わかる、が俺以外にもこの寝顔を見た者がいる。
そう思うと何やら苛立った。


「こんな年になって嫉妬ですか。」


自分の感情に少し呆れた。
不意に幸村の肌に触りたくなり垂れている右手が目に入る。
そしてその手に自分の左手を重ね軽く握った。
するとそれに反応してか幸村の手がキュっと握り返してきた。
一瞬固まる自分の体。
何故か目頭が熱くなり必死に流れ出そうなモノを堪えた。
あぁ、駄目だ。
もう止められそうにもないな。
誰にもこんな幸村を見せたくない。


「幸村を見るのは俺だけで十分なんですよ。」


はっ、と笑いながら小さく俺は正直な気持ちを吐き出した。




繋いだ手はそのままで、空いているもう片方で幸村を揺り起こす。


「幸村、起きろ。」


風邪をひきますよ、と心にもないことを言う。
その言葉で幸村の目はゆっくりと開かれ、自分は顔を目の高さを合わせ、一番に俺の顔が入るようにする。


「さ、左近殿!?なぜここに?」
「ちょいと用事がありましてね。」


起きられたか、と声を掛けてやり、予想通りの反応に笑い顔を浮かべながら当初の目的を告げた。




頭の中で幸村に好意を抱いている者達を浮かべ、俺は勝ち誇ったように左手に力を込めた。




















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