戦国

□義→愛
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「愛、貫かんがため!」


小田原城攻略戦にて幸村は兼続の言葉に続きこう叫んだ。
気持ちを高揚させてこの戦を勝利しようと意気込んだのも束の間、幸村の元にもの凄い速さで近づいてくる2頭の馬。


「早速敵将‥‥‥ってあれは三成殿!?」


まだ距離は離れているものの確かに三成の姿が幸村めがけて近づいてくるのが確認できる。
もう一人は兼続だった。
違う方向からも蹄の音が聞こえ振り向いてみればそこには、先に暴れてくるぜ、と一人敵陣へ突っ込んで行ったはずの慶次の姿が。


「松風は相変わらず良い馬だ‥‥‥って何故私に向かってくるのだ!」


そう叫びながらも近くにあった詰所頭を倒すあたりはさすが幸村だ。
そうしている中、幸村の元に3頭の馬と3人が揃う。
同時に到着し同時に馬から降りそしてこれまた同時に3人は同じことを叫んだ。


「「「誰との愛を貫くつもりだ!!!」」」


多少個々に台詞の誤差があるが同じことを口にし幸村も突然のことでただ驚くしかなかった。
目の前で息を切らし興奮状態にある3人を交互に見るが全く頭が付いていかない。


「幸村、正直に言え。俺との愛を貫くのだと。」
「何を言う三成、幸村は私との愛を義と一緒に貫くのだ!」
「馬鹿言っちゃいけないねぇ。俺と幸村は前作からの仲だぜ。」


一体どんな仲だ、と幸村は思った。
勿論、三成や兼続、その他周りで終始事の成を見ていた兵も同じ疑問を抱いた。
それよりも名のある武将が4人もこの場所で集まってもいいのだろうか、と。
この戦は勝てるのだろうか、誰しもが不安を感じていた。
そしてその予感は当たり今まさに本陣が危険な状態であるとの知らせが来たのだ。


「何、本陣が苦戦中だとっ!急いでお助けせねばっ!」


幸村が槍を握り直し早速助けに行こうとした。
したのだが誰かが腕を捕まえそれを阻止されてしまう。


「何をなさるのですっ!」
「まだ話は終わってないぞ」


腕を引っ張っていたのは兼続で残りの三成と慶次は言い争いをしていた。


「本陣が苦戦だといのに何をなさっているのです!」
「「「そんなことはどうでもいいっ!!!」」」
「どうでも良くありませんっ!」
はぁはぁ、と息を切らしながら幸村は真顔でいる3人に叫んだ。


「落ち着け、幸村。」


よく考えてみろ、と真ん中に立っている三成が志那都神扇をパタンと閉じながら喋りだした。


「今から天下を取ろうとしている秀吉様がたたが百や五百や千の敵に負けるわけがない。」
「いや、結構キツイと思われますが‥‥‥。」
「確かに秀吉様は猿だが、猿だからこそ大丈夫だ。」
「全く意味がわかりませぬ、三成殿。」


失礼極まりないうえに会話が噛み合ってない。
兼続は、今は勝利より私たちの未来が心配だ、と幸村の肩をがっしりと掴みながら力説をしている。
私たちというのは勿論兼続と幸村のことだ。
慶次は慶次で、何の為に長篠であんたを助けたと思うんだい、と大きな声で叫んでいた。
もう何を言っても目の前にいるこの人たちには無意味なのだろう。
そう幸村は悟った。
それにしてもどうしたらよいものか。
未だ援軍要請は後を絶えないでいる。
かといってまだ言い合っている幸村を除く三人は聞く耳持たず。
困った。
本当に幸村は困っている。
どうやってこの場から動くか。
それさえ思いつかなかった。
片手に槍を持ちながら、遠くで助けを求めている本陣に歯痒さを感じながら、何より目の前にいる三人に呆れながらただ幸村は立っているしか出来なかった。


「おい、幸村何をしてんだ。」


聞き覚えのある声がした。
この現状に助けを求めていた幸村にとっては天の声、救いの神。


「おい、聞いてるか?」
「さ、左近殿!」


助かったと声のする方へ振り向きなんとかしてほしいと目で訴える幸村。
本陣へ駆け付けている途中の左近は声を掛けるんじゃなかったと後悔をした。


「あ〜、何も言うな幸村。大体把握できた。」
「でしたらこの状況なんとかして下さい!戦に負けてしまいます!」
「なんとか‥‥‥ねぇ。」


ちらりと横目で幸村が困っている原因を見て溜め息が出た。
というよりこの三人は相変わらず幸村しか見えていないようで、俺がいるの気付いてないんじゃ、と左近は思った。
なんとかはしてやりたい、というかなんとかしないと軍の士気にも関わるし何より本気で戦に負けてしまう。
横で今にも泣きだしそうな幸村とその幸村に血眼になりながら言い寄っている三人。


「仕方ない、こうするしか‥‥‥ないか。」


モテル男は辛いねぇ、とひょいっと幸村を担ぎ左近は自分の馬に乗せた。


「なっ!一体何をなさるのですか!」


驚く幸村を余所に左近は手綱を手に取り馬を走らせた。


「こうやってお前を連れて行けば‥‥‥ほら、付いてきやがった。」


後ろを見ろというふうに顎で指す左近。
幸村より大きな体が邪魔をしてなかなか見えなかったがなんとか後ろを見てやるともの凄い形相であの三人が追い掛けてきていた。


「このまま本陣に行きゃ敵も倒せて秀吉殿も助かる。」


確かにあの勢いだと暴れて敵将なんかも倒しそうだ、と左近の言い分に納得した幸村はおとなしくしていようと決めた。


「ですが本陣へ到着する前に捕まったりしないでしょうか?」
「そうならないようにするしかないだろ。」


捕まったら助けてくれよ、そう言ったと同時に速度を上げる。
後ろにいる三人も馬の速度を上げながら付いてきていた。


「なぜ左近が幸村を抱いている!?まさか!」
「そう考えるのが妥当だろうな。」
「あの野郎、何時の間に幸村に手を出しやがった!」


順番に三成、兼続、慶次。
前を行く左近の肩からちらりと覗く心配そうな幸村が可愛くてたまらないと思いながらも嫉妬やら羨ましいやら、そんな感情が渦巻く。
そして頭の中は既に最初の問い掛け、幸村の愛は誰ものもなのかそれしかなかった。


「「「左近なんかと愛を貫くのか、幸村!!!」」」
「まだ言っておられるのか!」


離れている場所から聞こえてくる三人の声に大きな溜め息が出る。
左近にも聞こえていたようで乾いた笑い声で笑っていた。


「相変わらず人気者ですね。」
「笑い事ではございません。」
「ま、俺はお前となら貫いてもいいんですけど。」


どうしますか、と聞かれた幸村は戸惑った。
え、あの、その、と顔を鎧と同じ赤く染め馬上でギュと槍を握ったりしている。
そんな幸村に左近は声をあげて笑った。


「さ、左近殿?」
「速度をあげるからしっかり捕まってろよ。」


未だに笑いの止まらない左近に些か不思議そうな顔をする幸村を余所に馬の足は速度をあげる。
勿論、後方の三人も同様に速度をあげた。
そんな五人を兵達は遠くから暖かく見守り、幸村を少し憐れに思いながら西軍勝利を夢に見ることにした。




ちなみに、このあと幸村は誰の愛を受け取るのか兵達の中で密かな賭博が広まっていたりしたのだった。




















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