戦国

□十六夜の下で
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夜、寝静まった頃、幸村は人の気配で目が覚めた。
扉の向こうに目をやると人影が見える。
見覚えのある人影。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
そう思った幸村は布団から起き上がった。



























扉を開けると頭に思い描いていた人物が背を向けて立ってた。
声をかけようかとしたのだが先にその人物がゆっくりと幸村の方に振り返る。
幸村はまだ少し離れている相手との距離を縮めようと足早で歩き並ぶように横に立った。


「三成殿、何かあったのですか?」
「‥‥‥眠れないから気分転換をしていただけだ。」


起こしたようで悪かった、と謝る三成に幸村は頭を横に振った。
頭の中では悪いことばかり巡っていた幸村は逆にその言葉で安堵する。
そんな幸村を察してか三成はフッと笑った。


「と、いうのは嘘だ。」
「嘘、ですか?」
「‥‥‥お前と話がしたかった。」


その言葉で幸村は徐々に赤くなっていく。
だけどその顔には嬉しかったのか笑っており、私で良ければ、と答えた。
三成はまたフッと笑い空を見上げた。
それに釣られ幸村も空へと顔を向ける。
暗闇の中少し欠けた月が明るく照らしていた。


「今夜は十六夜なのか。」


幸村が月を見て独り言のように呟いた。
隣にいる三成はそのようだな、と首を縦に振る。


「久しぶりに月を見たような気がします。」
「俺もだ。」


暫らく二人して月を眺めていた。
と同時に沈黙が訪れる。
時折吹いてくる風が妙に冷く感じた。
その風に乗せ沈黙を先に破ったのは三成だった。


「俺はお前に言わなければならない事がある。」


小さな声だが静かな闇、ましてや隣にいる幸村にははっきりと聞こえてくる声。
その声に幸村は身構えた。
どんな言葉が三成から出てくるかもわからないのになぜか聞き逃すことは許されない、そう感じた。
たが三成の口は一向に開かない。
時折、動きはするのだが声として音は聞こえなかった。


「三成殿?」


不思議そうに幸村は三成の顔を覗き込む。
三成は目だけを動かし小さな溜め息を吐いた。


「今から言うことはお前にとって迷惑かもしれん。それでも俺は‥‥‥。」
「三成殿のお言葉、迷惑なんて事はございません。」


力を込め三成の言葉を否定する幸村に、三成は少し考えた後、小さく溜息を吐き出した。


「俺がお前に女に抱くような感情を抱いているとしてもか?」


軽蔑するか、最後はそう言った。
一瞬、幸村は理解が出来なくなったが、直ぐ様軽蔑などする訳がないと首を横に振る。
だがしどろもどろになってしまい正直焦っているのも事実。
突然の三成の告白に幸村は内心戸惑っていた。
それを見透かされているのか、三成の目はいつもに増して鋭く見えるのは気のせいではないはずだ。


「三成殿、私は‥‥‥。」


居たたまれなくなり何か言葉を喋ろうとするのだが幸村には何と言っていいかわからなかった。
三成もそのことが分かっているようで、何も言うな、とポツリと呟いた。
また静かな時間が訪れる。
風も先程より強く感じた。
頭の中は三成の言葉が反芻している。
色々なことが交ざり考えがまとまらない。
嬉しいのか、迷惑なのか、それすらわからない。
ふと三成は今どんな表情をしているのか気になった幸村はちらりと横に目線を移した。
だが三成の顔は空の月を向いており幸村には良くわからない。
そしてなぜか三成が自分ではなく他を見ているという事、そのことが悲しく感じた。
なぜこのように感じるのだろうか、そう思っても答えは出そうには無かった。


「もし、お前が答えをくれるなら。」


静かに三成の口が動く。


「同じ月、十六夜の日に欲しい。」


そして静かに口は閉じた。
はい、と小さく幸村は返事をする。
返事を聞いた後、相変わらず月に顔を向けたままの三成は幸村に振り向く事もなくその場から立ち去った。
一人残された幸村は三成の背中をずっと見えなくなるまで見送った。





辺りは月明かりがやけに輝いていて風に揺れて木々の擦れる音だけ聞こえる。


「十六夜‥‥‥か。」


そして幸村も自室へ戻るべくその場から動く。
ポツリと呟いた言葉は闇へと吸い込まれていった。




















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