LONG BOYSLOVE

□君のトナリ―永遠の楼閣―
1ページ/6ページ

[Scene.1]
 その時、僕は手塚の落とした言葉の爆弾が聞き取ることができなかった。
七月に入り、まだぐずついた天気の関東地方はさっきから降り出した雨で街を濡らしていた。部活帰りの僕たちはいつもの道を二人並んで歩いていた。
「えっ?何?手塚?」
会話の主導権を握っていた僕の言葉を止め、滅多に開かないその口は開いた。話を振ってくれた手塚の言葉を僕は心から欲した。
「×××××。」
「えっ?」

 声が掠れた。息が止まったのかと思った。僕の手からは力が抜け、お気に入りの鮮青色の傘は風に煽られ、飛んで行ってしまった。
 僕はその傘に気付かなかった。ただ、手塚を見据え、言葉の訂正を待ち望んだ。しかし、それは訪れることもなく、手塚は淀んだ街の渦へ飲み込まれていく。
「てづ・・・!!!」
呼んだつもりが声にならなくて僕は途方に暮れた。追いかけたいのにそこに根を張ったように足が動かない。手塚の選んでくれた傘が視界の端に見えた。その傘を気にすることもなく君は遠く離れて・・・。
(てづ・・・か?)
数メートル先で傘が揺れている。そんなものが目に留まらない僕は君の背中を見送ることしか出来なかった。
(僕は・・・ひつよう・・ない?)
僕の目には色の失った街とお気に入りの傘が佇んでいる。
僕の中には何の感覚も起こらなかった。足元が音を立てて崩れていくような感覚も、涙か雨かわからない雫が頬に触れ、落ちていく感覚さえも。

『お前はもう要らない。』
君はそう言って僕を突き放した。
途方に暮れるしかなかった、前触れもなく放たれた言葉に。
あまりにも突然で、悲しいのか苦しいのかさえわからない。

ただ・・・手塚にとって必要のなくなった僕が憎かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ