Daily Love

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2メートルほどの高さから落ちたその右腕は

骨にわずかなひびが入っているそう。


病室にかけつけた入江先輩のご両親。

入江先輩はお父さん似らしい。

少し長いまつげに囲まれた大きな目がこちらを見た。


父『どうも、奏多の父です。

奏多がお世話になったようだね。』


「いえ…私は……。」


私のせいでこんなことになったことはご両親は知らない。


母「何があったか教えて。」


深刻な顔のお母さん。

勇気を出して話すことにした。



「花火大会の帰りに、突き落とされそうになった私を…かばってくれたんです。」


涙をギリギリのラインで堪える。


母「じゃああなたが奏多を連れ回してなかったら奏多はケガをせずに済んだってことね。」


「っ……。」


父『おい、お前…。』


『母さん、そんなこと言わないでやって。

彼女は何も悪くない。』


ベッドからの入江先輩の言葉。

それすら響かないくらい絶望感でいっぱい。


そうだ。

そもそも入江先輩を花火大会に誘ったのが間違いだった。

ちょっといい感じだからって、

みつきさんのことで全然安全とは言えない状況の中で

調子にのった行動をとってしまった。


母「奏多がテニスやってるの知らないの?

不幸中の幸い、ケガしたのは右腕だったけど

しばらくテニスができないのよ…!?


自分がやったこと分かってるの!?」


そう言われても仕方ない。

涙をとうとうひとつ落としてしまい、慌てて目をこする。



父『やめなさい。彼女を責めるのはよくない。

悪いのは突き落としたやつだ。』


母「でも…!!」


父『誰だ、突き落としたのは。』


「それは………。」


『暗闇をすぐ逃げていったから分からないんだ。』


父『本当に分からないのか?

まあいい。どっちみち私は警察の捜査一課長でね、そういうことだ。』


犯人をつきとめるつもりなんだろう。

でも、私と入江先輩は知ってしまっている。


犯人がみつきさんだと知ったら、ご両親は何て言うんだろう。


父『家まで送ってあげるからもう帰りなさい。』






お父さんに家まで送ってもらうことになり、入江先輩とはここでお別れ。

こんな別れ方になるなんて思いもしなかった。


「入江先輩……ほんとに、ごめんなさい…。」


『琴音が謝る必要はないよ。ほら、泣かないの。』


優しく指で涙をぬぐってくれる。

でも涙は次々と落ちてしまう。


「だってわたしっ…いっつも入江先輩に迷惑ばっか……。」


『こら、琴音。』



頭を肩口に引き寄せられた。

ご両親の前なのにおかまいなし。


どこまで優しい人なんだろう。


『これくらいすぐ治るよ。

新学期が始まる頃には治ってるってことだし、

またそのときには元気な顔見せて。』


「入江先輩………。」


母「奏多…!」


父『母さん、もうやめろ。』


母「嫌…だって奏多はみつきちゃんと結婚させるもの…!」


お母さんはどうしてもみつきさんの“許婚”の肩書きを外したくないみたい。



父『いつまでそれを言ってる。いい加減自由にしてやれ。

琴音ちゃん、だったかな?

奏多が好きなのは分かるがそろそろ行くよ。』


「好っ……!?」


『はは。琴音今日はありがとう。

気をつけてね。』


「こ、こちらこそ…っ!」


バイバイと手を振った姿は、いつもより少し弱々しかった。
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