Daily Love

□5
3ページ/3ページ



* 入江視点 *




地元が同じなのは知らなかった。


琴音を自転車の後ろにのせて、見慣れた町を走る。


きゅっと僕のシャツを握る小さな手。

さっき繋げなかった手。


琴音の前では演技はどこかへ行っていた。


心を閉ざすために被っている演技の仮面は

知らない間に透明になって消えていた。


(私、作ってきます!)

(本当の入江先輩が好きです。)

(私の前では、そのままでいて下さいね。)



どこまでも真っ直ぐで、飾ることを知らない琴音に

僕はいつの間にか心を開いていた。


どうして仮面を手にしたんだっけ。

誰にも心を見せられなくなって

自ら被った仮面に疑問を感じるようになっていた。


ただがむしゃらにテニスをしているときだけしか

心を解放してやることができなかった。


でも、琴音とテニスコートで出会って、

一緒にときを過ごすようになって、

琴音との時間は

家族との時間よりも心地良くて……。


それは単純に、僕が琴音に心開いてるからだったということ。

そう教えてくれたのも、琴音……。


最初は戸惑った。

でも今は、琴音には自分の心の居場所であってほしい

そう願ってやまない。


とれなくなった仮面も、琴音の前で消えて無くなるならそれでいい。

そんなふうに思う。



「そこを左に曲がった所らへんです。」

『左ね、オーケー。』


琴音の家の前に到着。

ごく普通の一軒家は、僕のマンションのすぐ近く。

全速力で走って30秒…いや、頑張れば20秒でいけるかな?

中学校も同じ区域だ。

同じ中学に居たのに今こうしてやっと出会えたんだね。


朝練がないときは一緒に学校へ行けるじゃないか。

そんな話をしてやると、赤い顔で驚かれる。


次会う約束ができた。

安らかな時間がまた作れる。


『明日ここに着いたら連絡するからさ、アドレス教えてよ。』

「はい!」


僕らを繋ぐ、見えない線。

もっと短くなれ……――



continue..
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ