Daily Love

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晴天の帰り道。

少しでも一緒にいられるように、ゆっくり歩く。

静かな道では、入江先輩の声がよく通る。


『奏多ー!その子、彼女か?』


後ろから自転車をこぎながら話しかけてきた男の人。

ラケットバッグを持ってるから、テニス部の人かな?


『彼女ではないよ。』


彼女ではない…。

そうじゃないのは分かってるのに、どうしてか切なくなっちゃう。


『けっこう可愛いじゃんよ、俺が狙ってもいいか?』


自転車をこいだまま顔を覗き込んでくる。

けっこう嫌で反射的に退いてしまった。



『嫌がってるだろ、早く帰って。』


『おっと、笑ってるうちにやめとこ!
お嬢ちゃん、奏多の裏表には気をつけなー!

本当の奏多は怖いぞー!!』


男の人はケラケラ笑いながら去っていった。


「(怖い……?)」


見上げると、困ったような笑顔で頭をなでてきた。

どうしてそんな顔をしているの…?


理由は分からないけど、その表情は仮面だとは思えない。


むしろ、さっきテニス部の人に向けた笑顔こそ仮面だった。

笑ってはいるけれど、本当の笑顔じゃない。

心からにじみ出た笑顔じゃなかった。


「私、本当の入江先輩が好きです。」

『え……?』


「いつも私に向けてくれる笑顔とか、真剣にテニスしてるときの激情とか……、

すごく………好き、です。」


今更恥ずかしいことを言ってることに気づいて、慌てて唇を結ぶ。

入江先輩は珍しく何も言わない。


沈黙が流れたまま電車へ。

乗ったのは各駅停車。


1車両に私達含め10人くらいしかいない。

発車して2分後、入江先輩が口を開いた。


『琴音は、こうやって僕と話してるとき、

僕が演技してるようには見えないのかい?』


「…見えません。」


私を映す瞳は、悲しい色をしてる気がする。



「私の前では、そのままでいて下さいね。」


『琴音……


ありがとう。』


ふと表情をゆるめ

私の肩に頭をのせる。


その飾らないところが


好きで好きで、愛しくて愛しくて……――


ねえ、入江先輩…?


この抑えきれない鼓動は


あなたに聞こえていますか……?


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