Daily Love

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まさかの出来事。

入江先輩と思いが通じた。


この上ない幸せ。


でも、まだシコリがある。



「琴音ちゃん!」


「あ…みつきさん。」


不意にみつきさんに名前を呼ばれて、入江先輩の腕の中から出た。

無理矢理作った笑顔には、いっぱい泣いた跡があった。



「突き飛ばしたり、嫌な思いたくさんさせちゃったよね、ほんとにごめん…。」


「そんな……。」


「でもね、あたしもあんたに負けないくらい奏多が好きなの。


まだ幼稚園のときだったかな…。

初めて会ったとき、どこまでも優しい奏多のこと一目で好きになった。


幼稚園児の恋なんてちっぽけだと思うかもしれないけど、

あたしはそのときからずーっと本気で好きだった。


髪型を変えるときだって、洋服を買うときだって何をするときでも

奏多はこんなのが好きかなって考えて…。


初めて化粧をしたときだって奏多と会える日だったし、

あたしの世界は奏多中心に動いてる。


奏多に彼女ができたときだって、何が何でも諦めなかった。

目の前で手繋いで歩かれたって、久しぶりに会ったときに彼女の話をされたってめげなかった。


奏多に振り向いてもらうために何だってしたし、どんなことも我慢した……。


でも奏多は全然私を見てくれなかった。」



「みつきさん……。」


泣いた跡の頬にまた一筋。


その涙には、今までのいろんな思いが映し出されてるのかな…。


「奏多が高3になってから好きになった子…あんたは……

今までの彼女とは違った。


奏多はあんたの話するとき、見たことない穏やかな顔するんだよね。

あんたみたいな子とは二度と出会えないって、奏多言ってた。


めっちゃくちゃ悔しいけど……

本当の本気で奏多はあんたのことが好きみたい。」


「え………。」


みつきさんは続けた。


「今までになかった特別な何かを奏多はあんたに感じてるんだなって思って、

それが嫌で嫌でたまらなかった。


これまでは奏多に彼女ができたって、あたしの方が絶対いい女の子だし

あたしの方が奏多への気持ちは上だって自分に言い聞かせてきた。けど…


10年以上も思い続けてるはずが出会って数ヶ月のあんたに

大きな差をつけられていってる気がして…

だんだん、怖くなって……っ、う…く……。」


漏れた嗚咽。

こんなに悲しい涙があるんだろうか。


また自分が悪になった気がして罪悪感が浮かび上がってくる。



「それで…あんたを消そうと思ったの。

誰かにいなくなってほしいってっ…、本気で思ったの、初めてだった……!」



私が居なかったら、みつきさんの恋は叶っていた?

それは……絶対に嫌。


でも、みつきさんにとって私と入江先輩が結ばれるのは、

それもまた絶対嫌なんだろう。


兵隊くんのときと同じようにみつきさんの立場になって考えてみると、

恐怖で頭がくらくらする。


こんな恋…悲しすぎる。


でも同情はしても、譲る気はもう無かった。

私は残酷だ。



「もういい加減、諦めてもっと幸せな恋しようって思っても…無理なの…!

どうしようもなく奏多が好きで…奏多しか好きになれないっ…!!」


「…………。」


『みつき、気持ちはよく分かった。ありがとう。

もう泣かないで。』


「奏多のその優しさが…今は苦しい……。」


『…………。』


「わがままばっかり言ってた私ができる唯一の優しさは…

奏多…あなたを諦めることなの……?」



日焼け防止に羽織ったであろうカーディガンの裾が

涙でびちょびちょになってる。



「奏多…大好きだったよ。」


みつきさんは駅の方へ走り出した。

「あっ、みつきさん…!」


あっという間に見えなくなったみつきさんに、私は立ちすくむことしかできなかった。



  
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