Daily Love

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テスト1週間前。

部活は全て一時休止となり、放課後の下足室は生徒でごった返し。


一緒に帰るカップルが前を横切った。


――部活ないからテスト期間は一緒に帰れるね

――じゃあ明日も一緒に帰ろっか


ふと聞こえた会話に、心底羨ましくなる。


「絵里ちゃん……、」

「羨ましいんだ?なら琴音も入江先輩と帰ったらいいじゃん。」

「ええっ!?」

「3年生のロッカーはこっちかなー。」

「ちょっと…!」



嬉しそうにするする人ごみをすり抜けていく絵里ちゃんを必死で止めに行くけど

手遅れだった。


「入江先輩、琴音が一緒に帰りたいそうですよ!」

『ほんとに?』

「ちょっと絵里ちゃん……!」

じゃあ、頑張ってね。と言い残してあっという間に見えなくなった絵里ちゃん。


「(そんな急に……。)」

心の準備も何もできてない。

入江先輩はというと自然な笑みを見せ、靴をはきかえだした。


開けたロッカーから白い封筒。


“入江くんへ”と書かれている。


『行こうか。』


いかにもテキトーにカバンに押し込まれた手紙を気にしながら、首を縦に振った。


下足室の出口へ向かう背中を追う。

出口までは遠くて、私と入江先輩の間に1人、2人と入ってくる。

はぐれそう……!

咄嗟にその真っ白なシャツの裾を掴んでしまった。

振り向く入江先輩。


「ごめんなさい……!」


やだ、私何やって……。


裾を離して胸の前に引っ込んだ手に

すっとさしのべられた大きな手。


え、これって繋ぐってこと?


『ほら、はぐれちゃうよ。』


語尾を上げる優しい響き。


「(でも…む、むむむ無理だよ…!)」


とれないでいる右手。

それは、私の右肩へ……――


ざわめきだす周囲。
女の子の視線が痛い。

トゲが刺さるような思いだけど、振り払うことなんて絶対できなかった。


たくましい腕に誘導されて、下足室を出た。

去る肩のぬくもり。



『もうちょっと肩抱いててほしかったって?』

「えっ…!?」


クスクスと目を細める笑顔に釘付けになる。

この笑顔と今から一緒に帰れる。


高鳴る胸は、嫉妬の視線には気付かなかった。


  
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