Iolite
□●第三章 追跡●
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ビルボが目を覚ました時、ドワーフの奇襲(のような来訪)はまるで夢だったかのように静まり返っていた。
空になった食料庫が現実であることを示していたが…。
騒がしい一団が去った名残を眺めていたビルボは…胸のうちにワクワクと心躍る部分があることに気付く。
子供の頃、小さな巣穴を見つけて中を覗いた時のような…
野ウサギを追いかけて大人でもあまり行かないような村はずれまで行った時のような…
見知らぬものへの好奇心。
そして何か大事なものを失いかけているような焦燥感もくすぶっているたき火の残り火のようにチリチリと彼の胸の奥を刺激していた。
「………」
決心をつけた時から彼の行動は素早かった。
旅に必要だと思われるものをリュックサックに詰め込んで…洗い立てのシャツを着込んだ。
そして棚の上に置いてあるリネンの包みを開き…昨晩ルリが届けてくれた綺麗に繕われた少しだけ上質の別珍のジャケットに腕を通す。
結果、彼女の言葉通り、彼は今日この日にそれを着ることになったのだった。