Novel-ギャグマンガ日和

平田の別世界
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 オレの名前は平田平男。
 二十歳。
 オレは人と違うところがある。
 オレは気づいているんだ。
 自分がマンガの中の人間だと気づいている。

 オレは拳法の使い手だ。なぜだと聞かれたらこう答える。そういう設定なんだと。

 そんなオレには、いかにもマンガらしく、ライバルもきちんと用意されていた。

 そのライバルというのがパンツ被ってる奴だった。それはふざけた比喩でもなんでもなく、そいつは本当にパンツを被っていた。

 オレは混乱した。だけどそんなオレにはお構いなしでストーリーは展開していく。

 拳法家であるオレには師匠がいた。一子相伝だという拳法の流儀名が“ウッヒョヒョイ拳”だと聞かされた時は泣きたくなった。

 さらに死ぬほどどうでもいいが師匠には瓜二つの兄がいた。その人はどういう理屈か拳法家のオレが放った必殺技的な“波”の中からぬるりと現れた。

 ……本当にわけが分からない。というかこの時点でオレはもうどうでもよくなってきていた。

 そしてそんな無茶苦茶な設定のオレにはなんと付き合って一年という恋人がいた。

 唯一の救いだと思った。この世界の創造主に内心で感謝した。

 だがオレの恋人はパン一で何かくちゃくちゃ食ってるオッサンだった。

 誰が悪いってわけじゃない。期待したオレがバカだったってだけだ。

 そんなカオスな世界に生きるオレは一応は主人公らしく、その目的はというと悪魔大王というラスボスを倒すことだった。

 今までの流れからだいたい予想出来ると思うが、悪魔大王の風貌とか、オレと悪魔大王の死闘とか、それこそ語る価値もなければろくに中身もなかったので割愛する。

 とにかくオレは戦いに勝った。
 そう。

 悪魔大王は倒してしまった。

 向こうが勝手に自爆しただけだった気もするが、結果は同じことだ。

 そして悪魔大王を倒したその瞬間から、この世界のオレは目的を見失ってしまった。

 ほぼ時を同じくして、オレのライバルや師匠や恋人や(以下略)、この世界の登場人物達もまた、忽然といなくなってしまった。後に強烈なインパクトだけを残して。


 みんなどこかへ行ってしまった。



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