零外伝〜繭に籠りて〜
□序章
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電車とバスを乗り継ぎ、そこから徒歩で数時間。紅い蝶が指定した場所に辿り着いた。
この付近には調査のため以前にも何度か訪れたことがある。
だが……。
こんなところにこんな建物はあっただろうか。
その建物は山奥の開けた空間にぽつんと佇んでいた。外観は古い日本家屋そのもので、屋敷と呼んでもいい立派な造りだった。
ふと、空を仰いだ。いつの間に日が暮れていたのだろう。星一つ見えない夜空が頭上に広がっていた。
不審に思っていると、目の前の引き戸がガラガラっと大きな音を立てて開いた。この屋敷の住人だろうか。燭台を片手に掲げた着物姿の女性が立っていた。
「あの、こちらで皆神村についてお話を伺うことになっているんですが……」
「天倉様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
やはりこの屋敷で間違いなかったようだ。女性は俺を屋敷内へと招き入れてくれた。
案内されるまま屋敷内を進む。板張りの床がキィキィと鳴る。そうして通された部屋では、囲炉裏を囲んで六人の男女が座っていた。
着物姿の人もいれば現代的な格好の人もいる。この人たちが俺に皆神村の話しを聞かせてくれるのだろうか。
「どうぞ、こちらへ」
部屋に入り口に佇んでいた俺に、若い女性がそう声を掛けてくれた。白い着物を着た女性だった。
この女性が紅い蝶を名乗った人物だろうか。それともここにいる別の誰かなのか。
気にはなったがあえて確認はしなかった。
俺は促されるまま用意された場所に座った。
電気が通っていないのか、光源となるものは燭台に灯されたろうそくの明かりだけだった。
背後でスッと襖が閉じる音がした。
「さあ、始めましょう……」
そう誰かが言った。
俺は慌てて鞄からメモ用の筆記用具を取り出した。
「それでは、よろしくお願いします」
集まったメンバー全員に向けて、俺は深く頭を下げた。