Novel-GS3
□伝えたいこと
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放課後。
もうお決まりになった喫茶店。あたしはマグカップにそっと唇をつけて、静かにバンビの話を聞いている。
二年前。
春。
4月6日。
あたしたちは星に導かれるまま、そうなることが当たり前であるかのように、出会った。
あの日のことがまるでつい昨日のことのように思い出せるけど、あたしたちはもう三年生になっていた。
三年生。最終学年。つまりは受験生。
夏休みも終わって季節は秋。だけどあたしたちの間には受験生らしい緊張感なんてまるでなくて。今も週末に遊びに行く相談に忙しい。
「それじゃあバス停で待ち合わせね!」
弾けるような元気な声。
すぐに仲良くなったあたしたちはあの日からこうやって毎日のように一緒にいる。
とは言ってもしゃべっているのはほとんどバンビなのだけれど。
「時間もいつも通りでいいかな?」
今回バンビが提案した目的地は動物園。目当てはアルパカ。特に異論がないあたしは黙って首肯する。
「楽しみだねー」
そう言って本当に嬉しそうにバンビは笑う。あたしはその笑顔の眩しさに思わず目を細めた。
元来あたしはあまり口数が多い方ではない。むしろ少ない。
そのせいで周囲からはあまり友好的な人間だとは見られていないらしい。周囲の評価を気にしているわけではない。ただ客観的にそう自己分析しているというだけのこと。
バンビはそんなあたしを疎ましがることもなく当り前に付き合ってくれる。あたしの勝手な解釈かもしれないけれど居心地のいい距離感が自然とできあがっている。
だから。
あたしはこの友達を誰よりも好ましく思う。
そう遠くない未来。
この気持ちを素直に伝えよう。
そんなことを考えながらふと顔をあげるとバンビと真っ直ぐ目が合った。と、バンビは少し驚いたような顔をして、逃げるように目をそらした。まるでイタズラが見つかった子供みたい。
なんだか可笑しくて込み上げてくる笑いを誤魔化すように顔を伏せた。
冷房が効きすぎている店内で温かいミルクティーは心地いい。あたしはしばらく無言でその甘味を味わうことにした。店内のBGMがにぎやか過ぎるの少しだけ残念を思いながら。
「あ、あのね……」
「ん?」
微かに震えたバンビの声に顔をあげる。
急にどうしたというんだろう。
落ち着かない様子でバンビは目を泳がせていた。こんなバンビは今まで見たことがない。彼女が何かを打ち明けようとしているのは明白だった。
「えっと、だからね……」
そんなバンビにあたしは不安になる。二人の間の空気が急に張り詰めたようで。あたしは黙ってバンビの言葉の続きを待った。
ねぇどうしたのバンビ?
あたしに何を伝えようとしているの?
こんな時に占いは何の役にも立たない。星の導きは友人の心の機微までは教えてくれないから。
「だから……! あのね!!」
バンビは意を決したように口を開いた。
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