零外伝〜繭に籠りて〜
□第一話
1ページ/8ページ
立 花 樹 月
はじめまして天倉さん。
僕の名前は立花樹月といいます。
それでは僕が一話目ということで、さっそくお話させて頂きます。
天倉さんは皆神村について調査をされているということなので、もうご存知かとは思いますが、皆神村は地図から消えた村と言い伝えられています。
消えた。
ということはつまり、言い換えると、以前は間違いなく存在していた、ということになりますよね。
事実その通りなんです。
皆神村は美しい沢の奥、鬱蒼とした森を抜けた先にありました。
山間という地理的条件もあり、外界との交流はほとんどなく、それどころか近隣の村々は皆神村を忌避していた節もありました。
なぜか?
その原因の一つに挙げられるのが、皆神村で数十年に一度催されてきた秘祭です。
その祭の名前を紅贄祭といいました。
交流が少なかった近隣の村の人々が紅贄祭の子細を知っていたとは思えません。
ですが人々は直感的、あるいは本能的に、その祭が本来忌むべきものであると感づいていたのかもしれません。
それに交流がまったくなかったわけではありませんから。色々と見聞きすることもあったんでしょうね。
実際の祭の内容はというと、村に生まれた双子の少女を双子巫女にまつりあげ、儀式を執り行うという、形式的にはそれだけの至極ありきたりで単純なものでした。
儀式の詳しい内容は追々させて頂きますが、とにかく双子が儀式には欠かせませんでした。
ある年のことです。
二人の少年が儀式を行うことになりました。
……ええ。
間違いではありません。
この年、儀式を行ったのは双子の少女ではなく、双子の少年でした。
儀式を行えるのは少女だけではないんです。
村に条件が合う双子の少女がいない場合は、双子の少年がその代わりを務めます。
その年、祭主は双子の少年を双子御子として、儀式を行うことを決めました。
閉鎖された村のことです。
祭主の決定は絶対的なものだったんでしょうね。
そこに少年たちの意志が介入する余地はありませんでした。
そうして、紅贄祭の日がやってきました。